Someday 2


 その様子を影から窺っていた雷は、サイドカーに乗ったまま思案気に海のことを見つめていたが、やがて彼らが姿を消すと、ゆっくりと走らせ始めた。
 家に戻った炎は、埃まみれの海に家に上がってシャワーでも浴びて帰れと告げ、ばたばたと用意をし始める。今のまま家に帰ってもいいのだが、さっきの事が気に掛かって、海は結局炎の家で暫く時を過ごすことにした。
 お客が先だと海を先に風呂場に案内し、炎は海の鞄から銃を取り出すと自室の机の引き出しに放り込んだ。開けた引き出しの奥から、ずっと取り出して無かった小箱を取り、蓋を開けてみる。中には黒い石のはまった、見かけは腕時計くらいの大きさの腕輪が白い布の上に置かれていた。
「勇者の証…か…」
 幼い子供の頃、外国に居た祖父に聞かされた夢のような物語。祖父は日本人とギリシア人のハーフでずっとギリシアで暮らしていたらしい。父は母親…つまり炎には祖母だが…が死んでから、高校の頃一人で日本に来て、以来ずっと日本で暮らしているのだが、祖父はギリシアから離れようとしなかった。
 やがて父が結婚し、炎が生まれ数年して、突然祖父が日本にやってくると、炎を見るなりその物語を話しながらこれをくれたのだ。
  『これは勇者の証…お前が勇者になったなら、この使い道が解るだろうさ。わしには見いだせなかったが、お前なら使えるやもしれん。地球の全てのものを、護り戦う…お前は人を、動物を、地球を…愛し戦うことができるか?』
 こんな小さな子供に真剣に何を言っているのか、と父も母も苦笑して祖父を見つめていた。だが、炎は小さな手でそっと祖父の手から証を受け取ると、満面の笑顔で頷いたのだ。
「勇者になって、地球を救う……ってか」
 そのときの事をうっすらと思い出して炎は苦笑いを浮かべた。これがあっても、父も祖父も死から救うことはできなかった。世界中ではつまらないことで人間も動物も植物も日々死んでいく。それが運命なのだから、勇者は運命に逆らって地球を己のものにしようとする者と戦うことだと解っていても、今では半信半疑でいる。
「エン、先に使わせて貰ったぞ」
「ああ、ちょっと待ってな」
 階下からの声に蓋を閉め、炎は箱を放り込んで引き出しを閉めると、階下に降りていった。タオルで髪を拭きながら、出してもらった義父のシャツを着てリビングに立つ海に、炎は冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出すと渡し、自分もシャワーを浴びるために風呂場へ向かおうとした。
「ついでに夕飯食ってけば?作るのに時間かかるけど」
「よければ、私が作ろう」
「えっ?できんの」
 男子厨房に入らず、という雰囲気がびしばしする海なだけに、その言葉に炎は驚いた。海は鼻先で笑い、自分のことくらい自分でできねばどうする、と言って冷蔵庫の中身を物色し始める。
「あまり材料が無いな」
「あー、今日買い物出来なかったからな」
 意外な成り行きに、炎は驚いたまま応えた。海は使えそうなものを冷蔵庫から取り出し、炎を見ると行かないのか、という顔で見つめる。
「楽しみにしてるよ」
 引きつり笑いを浮かべ、炎は風呂場へ入っていった。
 玄関を開けて入ってきた森は、良い匂いのするキッチンに、鼻をひくひくいわせて足早にその方向へ向かった。炎にしては、いつもの料理とは違ったタイプの匂いである。和食っぽい出汁の香りが漂ってきていた。
「よー、エン、今日はいつも…と……げげっ!な、なんだあ?」
 のれんを潜り入ってきた森は、いつものふりふりエプロンを付けた後ろ姿が前より高い気がして声を潜ませ、くるりと振り返った姿に絶句した。
「お帰り。今日は真面目に部活をしてきたのだな」
「カイ…だよな。何でここに居んの?」
「エンは今シャワーを浴びている。もう出てくるだろうから、替わりにお前も入ってこい。すぐに食事の支度ができる」
「はあ、はい」
 てきぱきと料理をテーブルの上に並べ、支度をしている海をあっけに取られて見ていた森だったが、後ろからばたばたと足音が聞こえて振り向いた。
「お帰り、何ぼけーと突っ立ってんだよ」
「アレに驚かないほど、人間できてる訳じゃないぜ、俺」
 恐る恐る指を差す森に、炎は笑みを浮かべ納得して頷いた。
「確かに、ま、人生何が起こるか解らないってね。シャワーでも浴びて頭冷やして来たら」
「そうする」
 肩を落として風呂場へ向かう森を見送り、炎はキッチンへ入った。森と同じく、テーブルの上に並べられた料理の数々にびっくりして目を見開く。
「すげー、本格的」
 自分たちも料理はするが、インスタントに毛が生えた程度のものしか作らない。それに比べて出汁から作ったらしい海の料理は本格的な香りがした。
「育ち盛りなのだから、きちんと栄養を考えて作らなければ食事を採っても意味がない。昼間の食事は栄養のバランスがまるでなってなかったぞ」
 あの時は腹が立ったが、こうまで立派な料理を出されると、納得するしかない。炎は感心して海に近付いていった。
「はいはい、栄養まで考えていただいて、大変ありがたく存じます。で、それ何?」
 海が両手で持っている鍋の中身を見ようと、炎は身を乗り出した。ぴたりとくっつく炎の身体に、海の身体がびくりと緊張する。
「こ、これは、かき玉汁だ。みそ汁の具になるようなものが見あたらなかったから、そんなにくっつかなくても見られるだろう」
 焦って離れようとする海の二の腕に手を絡ませ、炎はどれどれと鍋の中身を見る。ちらりと視線を落とした海の目に、炎のタンクトップから覗く鎖骨や胸が映り、心臓がどくりと跳ねた。
「へえ……俺なんかいつもインスタントみそ汁だもんな」
 漸く離れて言う炎からそそくさと逃げ出すと、海はお椀にそれを移しながらどきどき鳴る心臓を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
 その時、玄関のベルが鳴り、せっかく落ち着いてきた海の心臓が再び大きく跳ね上がる。
「何だ?今頃」
 炎は首を捻りながら玄関へ向かおうとした。
「待て、もしさっきの奴らだったら」
「大丈夫。ここにはやってこれない。人目もあるし」
 そう言って廊下を走っていく炎に、海はほっと溜息を付いて椀をテーブルに並べた。
「顔が赤いぜ、カイ」
「な、何を言っている!」
 いきなり後ろから声を掛けられ、ぎくりと海は振り返った。にやにや笑いを浮かべた森がタオルで水滴を拭き取りながら慌てふためく海を見つめている。
「かーわいいだろ、いっつもあんな調子で目の前うろうろするんだぜ。暑い時には上が裸で下短パンにエプロンなんてー格好でさ。前から見ると巷で言う所の裸エプロンってやつ…」
「ば、馬鹿なことを言っているんじやない。エンのどこが可愛いと言うんだ」
 拳を握りしめて力説する海の様子は、全身で可愛いと言っているようなものである。自分で本当に気付いてないのか、森は呆れて肩を竦めた。
「シン、ヨクが来たぞ」
「お邪魔します。あれ、カイ、君も来てたんですか?」
 炎の後に続いて入ってきた翼に、海は頷いて言った。
「帰り道でちょっとしたいざこざがあって。ところで、何の用だ?」
「ああ、シンに頼まれたものがあって持って来たんですよ。作るのに時間がかかってしまって、今日中に欲しいって言ってたから。いざこざって何です?」
「いざこざ?」
 翼の問いに、森も首を捻って海と炎を見つめた。
「さ、飯、冷めないうちに食おうぜ。カイとヨクも食ってけよな」
 ごまかすように炎はばたばたとテーブルに着き、さっそく食事をし始めようとした。だが、ぴしりと海に手を叩かれ、むっとして目を向けた。
「皆が席に着いてから、平穏に食事ができることを感謝して始めるのだ。それくらい礼儀の一歩だぞ」
「へえへえ、ほら、早くみんな席に着けよ。飢え死にしちゃうぜ、カイの言うこといちいち聞いてたら」
 げっそりして返事をし、急かす炎に、みんなも慌てて席に着く。揃ったところで海が戴きますと言い、皆も合わせて言うと食事を始めた。
 食事が終わり、お茶を飲んでほっとした頃、翼は持ってきた袋を取り出し森に渡す。薄いその袋の中身がなんなのか、外からは窺うことはできなかった。
「何だ、それ?」
「巷で流行のインターネット、あっ、アダルト画像とかじゃないぞ!面白いゲームらしいんだ。ネットで対戦って奴。どこの誰とでもパーティを組めて、戦えるロールプレイングゲームなんだと。親父のパソコンでもできるかと思ってヨクに頼んでおいたのさ」
 インターネットという言葉に、ぴくりと頬を引きつらせた海を牽制し、一気に森は説明する。ゲームと聞いて炎の目は輝いた。
「へー、面白そうじゃん。で、大ボスとか居るのか、それ」
「本当の冒険者のように、いろんな仕事をこなして、たとえばダンジョンの中にいる化け物退治とかですけど、経験値を溜めるだけかと始めは思ってたんですが、どうやら、その世界には大ボスが居るようなんですよ。最近やっとそのことが判りかけてきたんです」
「世界中で、自分こそが真の勇者だ!とか名乗りを上げて大ボスを探し回ってる連中がごろごろ居るってよ。中には冒険者崩れで、同じ仲間を殺して得意になってる奴もいるらしいぜ」
 真の勇者と聞いて、炎は一瞬びくりと眉を上げた。ゲームの世界でも、そんなことが行われているのだろうか。
「何故、そのようなゲームに夢中になれるのか、私には理解できんな。現実がよほど退屈らしい」
 いきいきとゲームについて説明する二人に、海は苦々しく呟く。顔を見合わせて翼と森は苦笑を浮かべた。
「現実の勇者か……」
 そう、ゲームの世界でなら勇者も楽しい。誰もが一番の勇者になろうと、世界を救おうとしてやっきになって戦っている。だが、現実に勇者を必要としている者たちは、世界の平穏は真に力のある者たちの支配によるものしかあり得ないと考えているのだ。
「ところで、いざこざって何だ?エンが喧嘩でもふっかけられたか?」
 思いの外乗って来ない炎に、森が訝しげな笑みを浮かべて訊いた。
「まあ、そんなとこ。ゲーセンに行ったらこいつが居て」
「こいつとは何だ」
 じろりと睨み付ける海を無視し、炎は何でもないように続けた。
「変なおっさんたちが来て、俺に因縁付けるから、けっ飛ばして逃げたんだ。その時カイも何でか一緒に逃げることになって、転んで埃まみれになって…で、うちでシャワーでも浴びてけってことになった訳」
「なんだ、二人でシャワー浴びて、もうそこまでいってんのか、そうかー、やっちゃったのかあと思ったのに」
 いきなり海がお茶を気管に吸い込んでごほごほと咳き込んだ。森の言葉の意味が解らない炎は、首を傾げ、何をやっちゃったってんだ?と聞き返す。
「なんでしょうねえ」
 にやにやと海を見つめ、森は肘を付いて炎に応えた。
「それじゃあ、僕はこのへんで。ごちそうさまでした。また明日」
「ああ、ゲーム入れたら、パーティでも組もうぜ」
「そうですね。でも、シンとだと強くなりそうもないですけど」
「柔道部主将の俺になんて事を言う」
「現実じゃありませんからね。ゲームあまりしたことの無い人はレベルを上げるまではきついですよ」
 にこにこと笑って言う翼に、ちぇっと舌打ちをし、森は立ち上がった。海も立ち上がり、竹刀と鞄を持つ。
「私もそろそろおいとましよう。エン、済まないが、着ていた制服を…」
「ああ、もう乾いてると思うぜ。しっかし、毎日あんな制服着てるのってお前くらいなのに、律儀だよなあ」
 頷いて炎の立ち上がり、制服を取りに乾燥機の所へ向かった。
「エンの家での服、初めて見ましたけど、可愛いですね」
「ヨク、お前まさか…」
 ぎょっとする海と森ににっこり笑い掛け、翼は出てきた炎に挨拶し玄関から出た。続いて出ようとした海は、森を呼び寄せると小さな声で言った。
「いざこざの事だが、二人組の男だ。エンを狙っているらしい、気を付けろ」
「あ、ああ」
「暫く、私が往復一緒に登校しよう。明日の朝迎えに来る」
 マジ?と森が思っているうちに、海は出ていってしまった。
「何?カイのやつ、なんか言ってた?」
「心配だから、朝迎えに来るってさ」
「げ!何だよそれ」
 リビングに戻った森に炎は後片づけをしながら訊いた。森はソファに座ると、真面目な表情で炎の方を見た。
「何があった?」
「べっつにい…」
 忙しそうに洗い物をする炎に、森は厳しい表情を向けて強く訊いた。
「俺には話せないのか。一緒に暮らしてる兄弟なのに」
「シン…」
 洗い物の手を止め、炎は溜息を付くと振り向いた。
「悪い。シンに迷惑掛けたくないから…何も訊かないでくれよ」
「エン、明日っから、送り迎えは俺がしてやる。カイに迷惑掛けても良くて、俺に悪いなんて言わせねえからな」
 きつく言い放つ自分を唖然として見つめている炎に、何故こんなにむきになって言うのかと訝しく思いながら森は翼から受け取った包みを持って自分の部屋に上がっていった。
 いつもと同じ朝、日の光がカーテンから差し込んでも未だに起きる気配はない。だが、いきなり家の中に響く玄関ベルの音に、ベッドの中で炎と森はびくりと起きあがった。
「なんだぁ…?」
 そのまま無視しようとしたが、何度も鳴らされるベルの音に根負けして目を擦りながら階下に降りていく。同じような顔で出てきた森と顔を見合わせ、炎は玄関のロックを開けた。
「おはよう、迎えに来たぞ」
「……カイ」
 清々しい笑顔でにっこりと朝の挨拶をするカイを、炎と森は呆然として見た。確かさっき見た時計の針はまだ7時前を差していた苦である。
「いくらなんでも、早すぎるんじゃねえの」
「どうせろくに朝食も取らず登校するつもりだろう。私が支度をしているうちに、準備を済ませてしまえ、シン、お前もだ」
 さっさと言って中に上がり、キッチンへ向かうカイに、呆れたような視線を向け森は溜息を付いた。炎は欠伸を噛み殺し、ちらりと森を見上げる。
「も一回寝直してもいいかな…」
「どうせすぐあいつにたたき起こされるぞ。観念して支度した方がいいな」
 森の言葉にやれやれと肩を竦め、炎はタオルを取ると洗面台に向かった。森も続いて風呂場に行き、朝のシャワーを浴び始める。そうこうしているうちに、いい匂いが家の中に立ちこめ、炎はキッチンへ向かった。
「おお!みそ汁」
「大したものは出来ないが、これくらいは食べた方がいい」
「お袋みてーだな、カイ」
 にやにやと笑って言う炎に、海は僅かに頬を染めた。自分でもここまですることはないと思うのだが、どうにも放っておけないのだ。しかし、これを口実に、炎に近付くことが出来るのはとても嬉しい…何故嬉しいのかは、理解してないけれど。
「エン、お前もシャワー浴びてこいよ、すっきりするぜ」
「うん」
 森と入れ替わりにシャワー室へ向かった炎を見送り、海は再び朝食の支度をし始めた。もっとも、夜と違い本当に簡単な食事メニューなので、すぐにそれは出来てしまう。
「カイ、エンの奴服持ってかないでシャワー浴びてるみたいだから、持っていってくれよ。俺はコーヒーでも入れておくから」
「判った」
 全ての支度が終わった頃、森はさりげなくそう言ってイスの上に置いてあった炎の服を指さした。
海は頷き、風呂場へそれを持って歩いていく。その後ろ姿をにやりと笑って見つめ、森は、朝食の礼だ、と呟いた。
「エン、服を持ってきたぞ」
「サンキュ、もう上がる…」
 磨りガラスの向こうの影に声を掛け、服を脱衣籠の中に入れようとした海は、からりと扉が開いて真っ裸の炎が出てきたのを見て硬直してしまった。炎は水滴を身体中に付けたまま、壁に掛けてあったバスタオルを取り、頭から拭き始める。
「…どした?顔が真っ赤だ…」
 ふと、動かないで突っ立て居る海に気付いた炎は、頭からバスタオルを被ったまま手を伸ばしてその頬に触れようとした。
「なっ…なんでもないっ!は、は、早く拭いて服を着ろ。食事が冷めてしまう」
 炎の手が触れるより早く立ち直り、海はくるりと身を翻して風呂場から出た。炎は唖然として立っていたが、首を捻りつつも身体を拭き着替えてキッチンへ向かった。
「おー、まともな朝食だ〜」
「まあ、端っこの焦げた目玉焼きも嫌いじゃないけどな、俺は」
 にこにこと森が言うのに炎はむっとした顔で睨み付け、イスに座ると頂きますと挨拶をして食べ始めた。海は気を落ち着かせようと、炎の方を見ないようにして森の入れてくれたコーヒーをがぶ飲みしている。
「これから毎日朝迎えに来るってことは、こんな朝食が毎日食べられるってことか」
「甘えるな!今日は特別だ。教えるから自分でこれくらい作れるようになるのだな」
「ちぇ〜っ、なんだよ、ケチ」
 漸く気を取り直して応える海に、炎は舌を出してあっかんベーをする。その舌のピンク色に、さっきの肢体の思い出も相侯って、海の身体には覚えのある兆候が沸き起こってきた。
 顔には出さずにぎょっとして、海は空になったカップを呷る。
「コーヒー、お代わりいるか?」
「い、いや、結構だ。私もシャワーを使わせてもらっていいか?」
「いいけど、お前家で浴びてきたんじゃないの?」
「今、入りたいのだ!済まないが」
 大きな声で言う海に、驚いて炎は見つめた。後から声を低めて済まなさそうに言う海に、僅かに不審なものを感じるが、頷く。
「どうしたんだろ…さっきも変だったけど…」
 足早に風呂場へ向かう海に首を傾げつつ、声を抑えて笑っている森を見て、炎は眉を寄せた。
「何か知ってるんか?」
「いーやなにも。まあ、青少年にはありがちなことだろうなーって見当は付くけど」
 森の応えにますます眉を寄せ、炎はじっと見つめた。
「送り迎えなんて必要ねーのに」
 朝食も後片づけも終えて、漸く登校出来るようになった三人は、肩を並べて歩き始めた。炎は自転車を押しながら、森はバイクをとろとろと動かしながら歩いているのである。
「またあいつらが現れたらどうする」
「だからあ、それは俺の問題なんだから、俺がどうにかするって」
 その言葉に、海と森両方からぎろりと睨まれて、炎は首を疎めた。
「俺たちは兄弟なんだぞ。秘密があるってのは、何だか寂しいなあ」
「我が後輩を拉致するような真似は絶対許さん」
 うう…と詰まって炎は口をつぐみ、とにかく早く学校へ着こうと足を早めた。今まで奴らが襲ってこなかったのは、自分の居所が掴めなかったせいと、警察沙汰や人目に付くことを恐れたせいだろう。だから、こんな朝早くの沢山の人が居るような場所では絶対来ないというのに。

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