パスカルの群−agulV2-2−

   各地から入る地底貫通ミサイルの情報と、それによる地球への影響の大きさがパソコンのデータベースを埋める度に、藤宮の苦悩は深まっていった。
 最後の望みを掛けて、プロノーン・カラモスへ行き地球にもう一度アグルの光をくれと呼びかけてみたが、何も返っては来ない。地球の悲痛な叫びは益々大きく藤宮の心に響くのに、それ以外の応えはないのだ。
 藤宮はプロノーン・カラモスを出るとあてもなく歩き始めた。どれくらいの時が過ぎたのか、何かに引かれるように藤宮は海辺の小さな町に来ていた。地球の叫びは藤宮を眠らせることもせず、常に頭の中を占めている。それに加え、自分が見捨てた人々の苦しみ悲しむ声までもが藤宮を苛んでいた。
  自分が自分でなくなり、全てがそれらで埋め尽くされようとした時、藤宮は耳元に自分の名前を呼ぶ声を聞いて、微かに意識を取り戻した。
「ふじみやっ!」
 ぼんやりとした視界に、必死な表情の我夢が映る。泣きそうな顔で何かを叫んでいる我夢に、藤宮は何がそんなに悲しいのかと訊いたが、それは声にはならずそのまま再び意識が遠くなっていく。きっと悲しませているのは自分のせいなのだ。いつも、自分と会う時は、あんな表情をさせてしまう。本当は笑顔が見たいのに。
 藤宮は、目を覚ました時に、自分がどこにいるか判らなかった。白い天井が見え、周囲を見回すとそこが病室だと判る。点滴を外し、ベッドから降りると藤宮は病室を出て外へ向かった。潮の香りに引かれ道を外れるとすぐに海岸線に着く。
 藤宮は岩場に腰を下ろし、じっと海を見つめた。静かに波の音を聞いていると、地球の悲鳴が薄れていく。
「藤宮」
 人の気配に振り返ると、眉を顰めた我夢が立っていた。
「世話になったようだな」
 普通の調子で声を掛けると、ほっとしたような表情を浮かべ、我夢は藤宮の隣に同じように腰を下ろした。隣に我夢の暖かさを感じていると、胸に熱い物が込み上げてくる。こんな時に、と藤宮はそれを無視して話しかけた。
「お前が俺の立場だったら同じ事をしたか?」
「ああ、多分結果的には。君は間違ってなんかいない。人間だって変わらなきゃいけないんだ」
「だが、俺のしたことはアグルの脅威で人々を苦しませただけだ。挙げ句の果てが地底貫通ミサイルだ。地球は今、傷ついて悲鳴を上げている」
「藤宮…」
 藤宮は両手で頭を抱え、耳を塞ぐようにして言った。さっきまで微かになっていた叫びが再び脳裏を埋めていく。
「俺はもう一度、アグルの光を手に入れたいと願った。だが、地球は応えてはくれなかった。それは俺の中にやはりクリシスの答えと同じものがまだあるからだ。人を憎む心が…。もう光は戻って来ない。俺は償うことも出来ない…」
「違う! 君は戦う誇りを失ってしまっただけだ」
 藤宮は我夢の言葉に目を見張り、見つめた。真っ直ぐに自分を見つめる我夢の目は、蔑みも哀れみも怒りもなく、ただ静かな光が満ちているだけだった。
「戦う…誇り」
「そうだ。君は裏切られて誇りを傷つけられた。でもきっともう一度それを取り戻せば」
 我夢の声が身体に満ちて、悲鳴や苦痛を宥めていく。藤宮は我夢の言葉一つで癒されていく自分に驚き、戸惑って視線を外した。
 その時瀬沼が現れ、藤宮を連れていこうとした。それを制し藤宮を弁護する我夢の言葉も、穏やかな波のように身体に満ち心が軽くなっていく。
「貴方がそこまでおっしゃるなら、もう少し様子を見ましょう」
「瀬沼さん」
 我夢の熱意にほだされたのか、瀬沼は苦笑を浮かべて藤宮に掛けていた手を離した。安心したように笑顔を浮かべる我夢の表情がはっと変わり、空を見上げた。
「あれは」
 今朝倒した破滅招来体のマシンが粉微塵になった筈なのに、再び集まり形を取り戻していく。我夢は藤宮のことを瀬沼に頼むと、一人それに向かって走り出した。
 我夢のことが気に掛かりながらも瀬沼に連れられて離れていった藤宮は、我夢の叫びが聞こえたような気がして振り返った。瀬沼達を振り払い、元の場所へ走り出す。見上げた怪獣の胸の辺りに我夢が捕らわれているのを見て、藤宮は叫んだ。
「我夢!」
 それを聞きつけたのか、我夢の視線が自分を捕らえたと思った時、怪獣の放った光線が藤宮の足下を打ち抜き、爆風に煽られて地面に叩き付けられてしまう。
   『駄目なのか…俺にはもう…』
 意識が遠のく。
「……がむ…」
 暗闇の中、我夢の声を求めて藤宮は呟いた。
「…ふじみや…」
   『このまま、何も出来ずに朽ち果てるのか』
「藤宮くん」
「…藤宮…くん」
 薄れゆく藤宮の意識の中で、我夢が現れ呼びかけた。ついで玲子と稲森が現れ、誘うように名前を呼ぶ。
「彼らを救ったのは、君だ。戦う誇りを取り戻すんだ」
 脳裏に人々の姿が映しだされ、藤宮は思い出していった。地球を守りたいと思うのと同じくらい、人々も無意識のうちに守っていたことを。人を捨てきれずにいたことを。
 そして、今自分の命に代えても守りたい者は。
「俺には守りたいものが、ある」
 藤宮は目を開き、地面を強く掴んで呟いた。ゆっくり立ち上がると、全ての物が動きを止め、海の一点が藤宮を促すように輝いている。
 藤宮はそれを見て歓喜に打ち震えた。手に入れたい、心の底から、あの光が。自分の大切なものを守れる光が、欲しい。
 その呼び声に応え、海が藤宮を包み込むように迎え入れる。冷たい筈の水は柔らかく、暖かく包み込み、青いアグルの光は藤宮の身体中に満ちあふれた。
 海を割ってアグルとなった藤宮は飛び出し、我夢を救うために宙へ向かう。アグルの姿を見た我夢は、一瞬驚きに目を見張った後破顔した。
 アグルは我夢を救い出すと、あっという間に怪獣を倒した。確実に以前より強くなっている。それは、力が戻ったと言うより守るべきものが出来た強さなのだろう。
 EXに乗り、戻ろうとする我夢に藤宮は腕にいつの間にか戻っていたアグレイターを見せる。我夢もエスプレンダーを見せ、輝くような笑顔を浮かべた。その笑顔に、藤宮は釣られるように笑顔を浮かべる。
 自分が笑っていることに気付き、藤宮は驚いていた。こんなに気持ちよく笑ったのは何年ぶりだろう。
 心にまだ後悔も苦みも残っているし、多分一生消えないだろうが、我夢を救えたことやあの笑顔を見ただけで藤宮にのし掛かっていた暗闇と重さは軽くなっていくようだ。
 藤宮はEXを見送ると、踵を返して自分の出来ることをするために歩き始めた。

 藤宮は放置していた部屋に戻ると、情報を整理し始めた。地底貫通ミサイルの影響による環境破壊の恐ろしさが漸く世間に知れ始めたのか、世界各地で抗議行動が取られている。
  XIGも調査を進めていくうちに、まだ出ても来ない怪獣を倒すためのミサイルは、そこに怪獣が確かに居るという確証もないまま打ち込まれることもあり、あまり意味がないということも判ってきている。
 地球の環境のバランスが危うくなることは、人間で言えば病気になっているのと同じ事だ。これが続けば破滅招来体に対抗する力も弱まってしまうだろう。
 今までのように闇雲に止めさせようとするのではなく、どうやったら彼らに気付かせることが出来るのか。それを考えるために藤宮は部屋に籠もって資料を検討していた。我夢も地底貫通ミサイルの使用には反対を唱え、アルケミースターズを通して各国に訴えている。
 このまま地球の生命力が弱っていけば、近い内に破滅招来体は滅ぼすチャンスと見て総攻撃を掛けてくるだろう。いや、もう既にその段階にあるのかもしれない。
 藤宮は吐息を付くと、資料を机の上に放り出しベッドに横になった。付けっぱなしにしてあるモニタはXIGのメインコンピュータに密かに繋いであり、我夢の行動が把握できるようになっている。もっとも、何故かこうして真剣に思い浮かべれば、我夢の心の動きや行動が微かに窺えるようになっていたので、あまり必要性はなかった。
 ウルトラの光が強まったためだろうか。テレパシーかと思うほどに、我夢の心を感じ取れる。心が重くなってきたときに、我夢の事を考えればそれは軽くなる。後ろを振り返り立ち止まってしまった時も、我夢の笑顔に引かれ前へ進むことが出来る。
 この状態を何と言うのか、既に藤宮は納得していた。今更だとは思うが、最初に出会った時からそうだったのだろう。多分、身体を繋いだのもこの感情が底にあったからだ。こんな感情など邪魔でしかないと思っていたのに、今はこの想いに救われている。
 我夢の様子がおかしいことに気付いた藤宮は、それとなく注意すべきかどうか迷っていた。今度は外からの攻撃ではなく、我夢の心に直接仕掛けているようで手出しをすればかえって最悪の結果にもなるだろう。
 自分の心の闇には、自分自身で立ち向かわなくてはならない。我夢ならば、きっとそれに捕らわれることなく闘えるに違いない。
 そう信じていても僅かな不安は感じる。破滅招来体は何故我夢を捕らえ闇に引き込もうとするのか。かつて自分を手駒にしたように我夢をも手中に収めようというのか。
 街中を歩いていた藤宮は、突然暗闇に浮かぶ我夢の悲痛な表情を感じて足を止めた。一瞬の内に、今我夢の身に何が起きているのか理解し、藤宮は敢えて感情を抑え心の中で語りかけた。
   『お前は自分自身の闇に打ち勝つことが出来るのか』
 自分の中に昏いどろどろとした感情があることに、我夢が気付かない訳がない。普通の人間ならば必ず存在するそれを、深層に押し込め見ない振りをして過ごしてきた筈だ。それが白日の下に曝け出され対峙することは、下手をすれば心が壊れてしまう。
 自分の中にある醜い闇を認めるのは、酷く辛い。闇を粉砕するのではなく、それが在る事を認め、なお、光を持ち輝かせる事が出来るなら、それが勝利となるのだろう。
 我夢ならば、きっとそれが出来るはず。
 藤宮は、そう信じて再び歩き始めた。
 我夢が精神寄生体と戦った場所は、藤宮がドイツの大学に通っていた時に住んでいた家にほど近かった。研究室や実験工場も兼ねている屋敷は、古びた見た目よりセキュリティや機械施設が充実している。
 精神寄生体が現れた時と同じような波動を感知し、藤宮はその屋敷に行って調査をしていた。クラウスは自分の闇に負け、捕らわれてしまい破滅招来体の先兵となってクリシスにウィルスを仕込んでいたが、それと同じ事を今度は我夢にしたかもしれない。
 二度、我夢を狙った罠がまた繰り返されるような予感に、藤宮は眉を顰めてモニタ画面を見つめていた。
 微かに鳴る電子音に藤宮は別のモニタを見ると、我夢がEXで再びこっちへ向かっているとの情報が出ている。普通なら、破滅招来体と戦った後事後調査をすぐにするのだが、前回は自分自身との戦いと言うこともあって、出来る気力がなかったのだろう。
 藤宮は舌打ちをすると、上着を肩に引っかけて慌ただしく屋敷を後にした。
 クラウスの家近くの森にある円環と文字を我夢は調べているらしい。木陰から窺っていた藤宮は、じっと我夢の動きを見つめていた。
 敵対していた時も、こうしてよく我夢のことを見ていた。焦燥と苛立ちに悩まされながらも、藤宮は我夢を自分と同じ方向へ誘うことを止められなかった。切り捨てようとしても、出来なかった。
 それは地球のためではなく、自分が我夢を欲していたからだ。同じウルトラの光を持つ者としてではなく人として、ひとりの男として我夢を欲している。
 木に凭れそんな想いで見ていた藤宮は、異様な集団がいつのまにか我夢を取り囲んでしまったのを見て行動を起こした。
「こっちだ」
 集団の人間を躱し、我夢の手を引くと藤宮は森の奥へ走り始めた。彼らは多分、メザードの時と同じように操られているのだろう。でなければ、クラウスが変化したのと同じように今頃怪物の姿となっていてもおかしくない。
 日が暮れ暗くなった森の中を、駆け抜ける。この辺りは良く知ってる場所だった藤宮は、取りあえず彼らをやり過ごせる木陰に我夢を引っ張り込んだ。
 暗く道ではない場所を手を引かれるまま駆けてきたせいか、我夢の息が荒い。藤宮が木陰に座るよう促すとほっとしたような表情を浮かべ、我夢は腰を下ろした。
「藤宮、どうしてここに?」
「変な波長を感じた」
「まさか、メザード?!」
「いや…違うと思う。断定はできないが」
 我夢の隣に腰を下ろし、藤宮は質問に答える。藤宮の答えに我夢は吐息を付くと、しっかり抱き締めて持っていたミニノートパソコンを見つめた。
「EXまで戻れればいいんだけど」
「無理だな。多分、奴らは待ち伏せしているだろう。普通の人間にウルトラマンの力を使う訳にはいかないしな」
 はっと自分を見る我夢に、藤宮は苦笑を浮かべた。
「俺がそんなことを言うのが、可笑しいか?」
「えっ、いや、そんなこと…ないよ」
 見つめる藤宮の視線に、戸惑うように口ごもると我夢は視線を外す。闇に慣れた目に我夢の横顔が映り、それを無くしたくないと切に願う。つい先日自分の闇と対峙したばかりの我夢は、心の揺れがまだ治まっていないのか、遠い目をして溜息を付いた。
「君の迷いは無くなったんだね」
 そんな我夢の切ない吐息に藤宮の身体が熱くなり始める。身を寄せ合っていると、このまま腕を回して抱き締めてしまいそうだ。
「無くならないさ、俺が人間である以上。ただ、今は命に代えても守りたいものがある。それだけだ」
 藤宮の言葉に、我夢はゆっくりと振り向いた。黒く濡れたような目に、藤宮は吸い寄せられ視線を外せない。
「我夢…俺が」
 守るべきものは地球、そして人々。だが、今守りたい者はただ一人。
 告げようとした言葉は、近くの木がたてた音に阻まれた。藤宮は緊張を高め、周囲を窺う。まだ、それほど近くまで来ている訳ではないが、このままでは見つかるだろう。
「まだ、走れるな」
 立ち上がり頷く我夢を促すと、藤宮は音を立てぬようその場を抜け出す。身を隠しながら森を通り抜け、細い道へ出た藤宮は一気にスパートをかけた。この先の屋敷内に入ってしまえば、電磁フィールドもあるし、操られているだけの普通の人間ならば入ってはこれない。
 塀を乗り越え、我夢を助け降ろすと藤宮は屋敷に入っていった。自家発電機の電力はコンピュータ関係やフィールドに使っているため、屋敷の中は薄暗い。
 懐中電灯を付け中に入っていく藤宮の後から、我夢も興味深そうに辺りを見回し着いてきた。
「ここは?」
「俺の家だ」
 二階の一番奥の部屋へ入ると、藤宮は懐中電灯を消し入り口近くに掛ける。暗い場所から明るい所へ急に入った我夢は、目を瞬かせ物珍しそうに部屋の中を見ていた。
「一応この周りには電磁フィールドが張ってある。どこまで奴らに効くか判らないが普通の人間だったら入っては来られない」
 藤宮の説明に我夢は目を丸くして感心したように頷いた。こんな古びた屋敷にそういう仕掛けが施してあるとは思わなかったのだろう。この部屋にしても、装飾は十九世紀の頃のままだが、パソコン用の大きな事務机とイス、スチール棚に詰められた書類がアンバランスだ。
 藤宮は我夢に持っているノートパソコンを渡すように言った。さっき我夢が打ち込んでいたデータを早く検証したい。
「あ、いいよ、僕がやる」
 我夢は断り、ノートパソコンを机の上に置くと、立ち上げて調べ始めた。我夢の背中側から液晶画面を覗き込んでいた藤宮は、次第に解読されていく内容に眉を顰めた。
 我夢にアグルの光を渡してから世界各地で調べた伝説に酷似しているその内容は、遙か昔から英雄と名の付く人間に当てはめることができる。光と力を持ちながらも破滅招来体に利用され、地球に戦いと混乱をもたらした藤宮もまた、それに誑かされた一人だった。
 我夢の表情が見る間に曇っていく。藤宮はそんな我夢の頭をくしゃりと撫でると、静かに言った。
「俺達は、地球と人類を守る。俺達が人間である限り。クラウスは心と体を差し出して人間であることを止めたんだ」
「…そう…だね」
 我夢は目を閉じて頷いた。多分、自分の中の闇を思い、藤宮のことを想っているのだろう。
 藤宮は胸に熱く込み上げる愛しいという想いを押しとどめられず、我夢の頭を撫でていた手をその頬にあて上向かせると口付けた。
 驚き身を離そうとする我夢の身体に腕を回し、離れた唇を再び合わせる。
 戦きが伝わる口内に舌を差し入れ、甘く柔らかな感触を思う存分貪ると、藤宮は唇を滑らかな頬に滑らせた。
「ふ…じみや…」
 激しい口付けに息を弾ませ、我夢は藤宮の肩に縋り付く。その身体からコンバーツの上着を器用に脱がすと、藤宮は我夢を広い机の上に横たえた。
「な…に、するんだ」
 僅かに脅えた目で我夢が自分を見上げているのに、藤宮は止めることが出来なかった。今まで沈めていた熱い情欲が身を焦がし、出口を求めて渦巻いている。
「欲しい…高山我夢が…」
 口をついて出た藤宮の正直な言葉に、我夢ははっと目を見開いて見つめた。一度無理やり奪った時と同じ言葉だが、藤宮の想いを込めた表情はその時と違っている。その想いをどう受け止めたのか、我夢はゆっくり目を閉じて力を抜いた。
 我夢の前髪を掻き上げ、藤宮は額に口付けると、閉じられた瞼に口付ける。そのまま薄く開かれた唇に軽く触れ合わせると、深く口付けた。
「…あ」
 シャツをめくり上げ、素肌に触れると我夢の口から短い声が漏れる。胸の突起に触れ、藤宮は指先で転がすように愛撫した。
 びくりと跳ねる我夢の上半身至る所に手を滑らせる。失いたくないもの、守りたいもの、全ての想いを込めて確かめるように。
 堅く勃ち上がった突起に舌を這わせ、捏ねると我夢の口から熱い吐息が漏れた。それに煽られるように藤宮は、さらにもう一方の突起も指で押しつぶすように弄っていく。
「逃げるな」
 熱くなっていく下半身を恥じるように身を捩る我夢に、顔を上げ藤宮は微笑みかけた。羞恥に赤くなり、我夢は唇を噛み締めて顔を背ける。
「あ…でも、外…」
 カーテンも掛けられていない部屋は、もし奴らが入ってきたとしたら確実に場所が判ってしまう。それどころか、こんなことをしていたら対処もできないことを、我夢は心配しているのだろう。
「大丈夫だ、入ってこれやしない」
 藤宮は我夢の両足の間に自分の身体を入れ逃れられないようにすると、じっとその下半身を見つめた。口付けと胸への愛撫で我夢の下半身は、布の上からでもはっきりと判るくらい形を変えている。
「み、見るなっ」
「恥ずかしがることはない…、俺も」
 藤宮はもう既に充分熱くなっている自身を、我夢の太股に押し当てた。その行為にびっくりしたのか、我夢は顔を戻すと藤宮を見た。
 我夢の目に、怯えや羞恥だけでなく情欲の光を藤宮は見出した。それを知ったのか、視線を遮るように我夢は両腕で顔を覆ってしまう。
 必然的にがら空きになった下半身に、藤宮は手を伸ばし布の上からそ我夢自身を握り締めた。びくりと我夢の身体が反応し、息を漏らすまいと唇を噛み締める。
 藤宮はズボンと下着を取り除くと、半ば以上勃ち上がっている我夢自身を握り締め、先端を親指で擦り上げ扱いた。
「あっ…ぁ」
 藤宮の愛撫に、堪えきれず我夢の口から喘ぎ声が漏れ、果ててしまう。藤宮は床に膝を付くと、丁度下半身だけ机から伸びているぐったりした我夢の両足を肩に担ぎ上げ、萎えた自身の先端をねっとりと舐め上げた。
「やっ…」
 腰をしっかり捕らえ、舐め上げ、口に包んでは吸い上げることを繰り返す藤宮に、我夢は翻弄され口からは啜り泣きのような声がひっきりなしに漏れ出す。
「ああっ」
 再び堅く勃起したそれから口を離し、藤宮は手でやんわりと揉み扱きながら奥に秘められた場所へ口を移動した。
 舌先で堅く閉ざされた場所をつつき、さっき手で受け止めた液を与えて潤していく。指先で押し広げるようにして更に中まで舌を侵入させると、藤宮は充分受け入れられる程に唾液も加えて濡らしていった。
 藤宮は立ち上がると手早く服を脱ぎ捨て、はち切れそうになっている自身を、解れた我夢の秘処に押し当てた。
 ゆっくり挿入し、息を詰める我夢が慣れるまで動きを止める。指先で我夢の唇を撫で、それによって解けた合わせから息が吐き出されると、藤宮は徐々に腰を動かしていった。
「…はっ…ぁ…あ…」
 強く腰を穿つと、我夢は声を上げ腕を伸ばして藤宮に縋り付いてくる。藤宮は我夢の身体に腕を回し、強く抱き締めると更に熔けるような熱い内部を貪っていった。
「くっ…」
「…ん…っああっ」
 一際強く穿つと藤宮は自身を放った。同時に藤宮の手の中に我夢も果てる。大きく息を吐き、桜色に上気した身体をぐったりと机の上に伸ばしている我夢に、藤宮はまだ情欲の醒めない口付けを与えた。
「…あの…藤宮…」
「まだ夜明けまでには時間がある」
 戸惑うように見上げる我夢に、藤宮は応えるとその身体を抱き上げた。離したくない、もっともっと触れ合っていたい。
 藤宮は隣の部屋の寝台に我夢を運び、そっと降ろすと再び身を重ねていく。熱は冷めるどころかますます上がり、一度火のついた情欲は止めようがなく、夜が更けるまで二人は睦み合った。
 ただ一人の愛する者を守ることも、地球を守ることも、藤宮にとっては同じこと。  疲れて穏やかに眠っている腕の中の我夢を愛しげに見つめ、藤宮はそっと口付けた。

ガイアトップ -agulv2-1 -fujimiya2-1