八月に入って漸く補習と追試の嵐をくぐり抜けたエンは、暑い学校を抜け出してやれやれと大きく伸びをした。今日からはゆっくり遊びにも行ける。
 今まで拘束されていた分、自由を取り返すぞ!と大きくガッツポーズをとると、炎は勢い込んで街へと走り出した。
 ゲームセンターの前できょろきょろと辺りを見回し、煩い奴が居ないことを確認する。もう3年になって普通なら受験勉強のためにやめるだろうに、なんと今度は『名誉』風紀委員長などというふざけた役職に就いた海が来るかもしれないからだ。
 あんな格好で街中を歩かないで欲しいよなあ、と思いつつ炎は暫く触っていなかった新しいゲーム台へ嬉々として付いた。
 「エン」
 「げっ…」
 さあ、やるぞっ!と腕まくりをした途端、肩に手を置かれて炎は青ざめた。そろりと後ろを向くとさっき思い浮かべていた件の委員長が僅かに眉を寄せて炎を見下ろしている。
 「補習が終わったとはいえ、今の内に課題をやっておかなければ、後で泣きを見るのはお前だぞ」
 「いーだろー、久しぶりなんだから。それよりカイこそ、こんなとこでうろうろしてていいのかよ。受験勉強だなんだって忙しいんじゃないのか」
 「確かに忙しいが…まだ後輩に全てを任せるという訳にはいかないのでな…特に……」
 海はその後口ごもり、じっと炎を見つめている。炎はその視線に何となく居心地の悪さを覚えてそっぽを向いた。

★カイに一緒にゲームをしようと誘う   ☆ゲームを諦めて外に出る