「まったく、お前もたまには息抜きしたら?せっかく後輩出来たんだし、受験勉強しないんならゲームでもすりゃいいじゃん」
取り敢えず、些細な抵抗を試みる。聞きゃあしないよな、と立ち上がろうとした炎は、ふっと離れ向かい側に歩いていった海を驚いて見つめた。
「カイ?」
「せっかくの休みだ。たまには息抜きもいいだろう…やらないのか?」
「あ、ああ、そうこなくっちゃ、ちょっとは話が判るようになったじゃねーか」
「ただし、1時間だけだぞ」
「へーへー」
時間制限付きと聞いて炎は力無く手を振ったが、気を取り直してゲーム機にコインを入れた。自機を選んでボタンを押す。小気味よい音楽と操作感を楽しむようにトリガーを引き連射していった。
「あっ、カイ、てめーなんつーでたらめな攻撃すんだよっ」
「そんなことを言われても、初めてでは仕方なかろう…」
初心者のでたらめな攻撃に翻弄され、炎はあっけなく負けてしまった。
「ちくしょーっ、今度は負けねーぞ」
次の勝負は炎が勝ち、勝利のガッツポーズを取る炎に海は僅かにむっとする。たとえゲームでも負けるのは悔しいらしい。
「やっぱ、ゲームは俺の方が強いな」
「エン、時間だ」
何度か同じゲームをやり、別のゲームでも7:3の割で勝ち抜け、炎は普段は竹刀でぼこぼこ殴られているお返しとばかり、うきうきとした調子で海に言った。次に行こう!とますます元気が良くなる炎に無情にも冷たく海は告げる。
「え~っ、いいじゃん、もう一つ!こんだけっ、なっ、カイ!」
出ようとする海の腕にひしっと掴まり、炎は上目遣いにお願いポーズを取る。狼狽えたように海は炎の腕を取り、一つだけだぞと言ってため息を付いた。
そのゲームは以前竜と一緒に入ったゲームで体感式のアクションゲームである。嬉しげに入った炎は、海にビームサーベルを渡すとばしばし敵を倒していった。海もまた的確に倒していく。そういえば、こいつは剣道やってたんだっけ、と感心して見ていた炎は、何かに足を取られて高い場所から転げ落ちてしまった。
「うわっ!」
「危ないっ、大丈夫か?」
足首を捻ったらしい炎を抱き留め、ぎゅっと強く海は抱きしめた。不思議そうに見上げた炎を離し、海はこほんと咳払いをする。立ち上がった炎は足首の痛みによろけた。それを支えようとした海の腕より先に別の手が差し伸べられ、炎はそれに縋り付いた。
★
「リュウ、お前も来てたんか?」
「ああ…」
出した手を引っ込めるタイミングにぎくしゃくする海を後目に、竜はそのまま炎に腕を貸してゲーセンの出口まで連れていった。
「送っていこう」
慌てて海が後に続き、炎に腕を差し出した。
★リュウと帰る ☆カイと帰る