ゲームが出来ずにふてくされている炎を見張るように一緒に出た海は、帰るぞと声を掛けた。どうやら家まで着いてくる気らしい。
 「よお、また捕まってんのか?」
 「シン」
 早く行かないかと見つめてくる海から冗談じゃないと離れようとした時、声を掛けられ炎は振り向いた。にやにやと見ている森と翼が手を上げて近づいてくる。
 「それとも、2人でゲームか?」
 「んな訳ねーだろ。それよりお前らこそ、こんなとこで何やってんだよ」
 「これからシンの家に行って浴衣を着せて貰うんです」
 「浴衣?」
 不思議そうに聞き返した炎は、はっと気付いた。そういえば、今日は花火大会と縁日が開かれるのだ。今まで補習だ課題だと追われていてすっかり忘れていた。
 「そーだった!俺も行く……」
 勢い込んで言いかけ炎の後ろからこほんと一つ咳払いが聞こえる。炎はぱっと振り向くと、海に両手を合わせて拝みこんだ。
 「今日だけ、課題はナシな。いいだろー」
 「エン…」
 「なんだよ〜、横暴だぞ!お前に止める権利なんか無いん」
 「浴衣なら私の家にもある」
 へ?と炎は海を見た。片目を瞑り、にっこりと笑う海に口をぽっかり開けて見入ってしまう。
 「そうだなあ、さすがに俺んちに3枚はないからな、浴衣」
 「じゃあ、6時に待ち合わせしましょうか。いさはや神社の境内の前で。みんなで見た方が楽しいでしょうし」
 「では行くぞ」
 「おお…」
 驚きながらも海に促され、炎は歩き始めた。


 海のでっかい屋敷のような家に驚きながらも入っていった炎は、浴衣を渡されてもそれをどうしていいか判らず、広げ突っ立ったままで居た。
 「どうした?」
 「着方…わかんねえ」
 「まったく…服を脱げ、着せてやる」
 海は大きくため息を付き、浴衣を受け取った。炎はぱっぱと服を脱ぎ、パンツ一枚になると海の前に立った。

 「カイ?」
 じーっと自分を見つめている海に訝しげな視線を向け、炎は名前を呼んだ。はっとして海は微かに頬を染めてきぱきと浴衣を着せていく。
 腰の上で帯を結び、くるりと姿見の前で廻って自分を見た炎は、結構その格好が気に入って嬉しげに笑った。海もそれを見て笑顔を浮かべると自分も浴衣を着る。
 「へえ〜、似合うじゃん」
 自分はまだ浮いている感じだが、海の方はしっくりと似合っていて様になっている。しげしげと感心したように見ていた炎は、普段とは違う様子で笑みを浮かべ見つめてくる海に、どきっとしてしまった。
 「は、早く行こうぜ」
 「走るな、危な…っ!」
 照れを隠すように走り出した炎は、途中の道で同じように走ってきた子供をよけようとしてよけきれずこけてしまう。いつもならこんなことは無いのだが、浴衣と下駄では感覚が違っていたのだ。
 「いって〜っ」
 「大丈夫か?…」
 「あ、ああ…動きにくいなーこれ」
 海に手を貸して貰って立ち上がった炎は、足首を捻った痛みに眉を顰めた。けれど歩けない程ではない。呆れたように見る海の手前、痛みなど無いように炎は普通に歩き始めた。


 6時に境内の前に来ると、すでに縁日には大勢の人が集まりざわざわと楽しげな雰囲気に満ちている。炎は森たちと合流すると早速縁日を見て廻ろうと声を掛けた。
 「花火が始まるまで縁日廻ろうぜ」
 「あまり無駄遣いはするな」
 「変な物喰って腹壊すなよ」
 「怪しいおじさんに着いていかないようにね」
 はしゃぐ炎に三者三様の声がかかる。がっくりとこけた炎は、なんでそんなことを言われなきゃなんないんだと拳を握りしめた。
 「あのなあ…」
 まったく…と憤慨しながらも、炎は縁日の屋台に向かって突進していった。

★金魚すくいに行く     ☆風船釣りに行く