「あ、俺リュウと帰るから…」
 海の手を取らずに、炎はそのまま竜と歩き始めた。そうか…と呟く海の声に後ろを振り返ろうとしたが、竜はそのままどんどん歩いていってしまう。
 「お、おい…リュウ…足、痛いんだけど…もうちょいゆっくり歩いてくんない」
 「ああ…すまない。ミナコが待っているんだ…」
 海の姿が見えなくなる頃、漸く足を緩めて言う竜に、炎はへえと目を見張った。美奈子が退院してからは暫く会っていない。元気でやっているだろうか。
 「俺も会いに行っていいかな?」
 「ああ、もちろん…今日は花火を見るといって朝からはしゃいでいる」
 花火と聞いて炎はおお、と顔を輝かせた。そういえば、今日は花火があるのだった。補習だなんだですっかり忘れていた。
 「病院の裏手の山からなら人があまり居なくてよく見える」
 「さっすがリュウ!よく知ってんなー。じゃあ3人で今晩見に行こうぜ」
 にっこり笑って頷く竜と一緒に美奈子が待つ学校の別宅…竜が一人で作ったらしい…へ行った炎は、それから夜まで3人で過ごした。


 「きれーい…」
 はしゃいで夜空の花火を見上げる美奈子と、それを優しげに見守る竜を炎は幸せな気分で眺めていた。花火よりも2人を見ている方が楽しい…かもしれない。
 「どうしたの?あんまり花火見てないじゃない」
 「え、そ、そうかな…」
 美奈子に言われ、どきりとして炎は狼狽える。だが、美奈子はくすりと笑うと言った。
 「わかった。せっかく夜店が出てるのに行けなかったから悔しいんでしょ。ふふふ…後で私が作った夜食食べようね」
 「う…そんな訳じゃ…でも、夜食は楽しみだな」
 顔を赤らめ、呆れたように見つめる竜に違う違うと手を振ると、炎は改めて夜空を見上げた。

おしまい

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