「大丈夫だって、これくらい」
 竜から離れた炎は、海に腕を掴まれて戸惑うように見つめた。海は腕を離しはしたが、僅かに不満そうに炎を見ている。まさか、手を離したらまた遊びに行くんじゃないかと思ってるのか?とちょっとむっとして歩き出した炎だったが、痛みに顔をしかめ足が遅くなる。
 「やはり送って行こう」
 「いいってば」
 肩に手を置き言う海に、炎は噛み付くように言った。
 「よお、どうした足?」
 「シン」
 黙って見つめてくる海から離れようとした時、声を掛けられ炎は振り向いた。にやにやと見ている森と翼が手を上げて近づいてくる。
 「こんなとこで3人でナンパか?」
 「んな訳ねーだろ。それよりお前らこそ、こんなとこで何やってんだよ」
 「これからシンの家に行って浴衣を着せて貰うんです」
 「浴衣?」
 不思議そうに聞き返した炎は、はっと気付いた。そういえば、今日は花火大会と縁日が開かれるのだ。今まで補習だ課題だと追われていてすっかり忘れていた。
 「そーだった!俺も行く……」
 勢い込んで言いかけた炎の後ろからこほんと一つ咳払いが聞こえる。炎はぱっと振り向くと、海に両手を合わせて拝みこんだ。
 「今日だけ、課題はナシな。いいだろー」
 「エン…」
 「なんだよ〜、横暴だぞ!お前に止める権利なんか無いん」
 「浴衣なら私の家にもある」
 へ?と炎は海を見た。片目を瞑り、にっこりと笑う海に口をぽっかり開けて見入ってしまう。
 「そうだなあ、さすがに俺んちに3枚はないからな、浴衣」
 「じゃあ、6時に待ち合わせしましょうか。いさはや神社の境内の前で。みんなで見た方が楽しいでしょうし」
 「では行くぞ」
 「あれ…リュウがいねえや…」
 いつのまにか居なくなった竜を探してきょろきょろする炎を促し、海は歩き始めた。


 6時に境内の前に来ると、すでに縁日には大勢の人が集まりざわざわと楽しげな雰囲気に満ちている。炎は森たちと合流すると早速縁日を見て廻ろうと声を掛けた。
 「花火が始まるまで縁日廻ろうぜ」
 「あまり無駄遣いはするな」
 「変な物喰って腹壊すなよ」
 「怪しいおじさんに着いていかないようにね」
 はしゃぐ炎に三者三様の声がかかる。がっくりとこけた炎は、なんでそんなことを言われなきゃなんないんだと拳を握りしめた。
 「あのなあ…」
 まったく…と憤慨しながらも、炎は縁日の屋台に向かって突進していった。

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