悲鳴は女の子のようで、炎はちょっとだけ躊躇い、ええいと声のした方へ向かった。道無き道を草を踏み分け行くと、小さな空き地に出る。そこには祠があって、一瞬炎は踵を返そうかと思った。
「エン!」
「マリア…」
人影に声を掛けられてびくりとするが、それが真理亜だと判ってほっとする。だが、真理亜は眉を顰め顔を強張らせていた。
「おやおや、ボーイフレンドとデートだったのか。そいつは残念…ぼーや、彼女とのデートはあきらめな」
その場に居たのは真理亜だけではなく、柄の悪そうな男が二人馬鹿にしたようなにやにや笑いを浮かべて炎を見ている。相手がお化けではなく生身の人間…しかも遠慮の入らない…と判って炎はにやりと笑った。
「マリア、ずいぶん趣味のいいデートの相手だな」
「馬鹿言わないでよ、こんな奴ら相手にするくらいなら、幽霊の方がずーっとましだわ」
「な、なにいっ!」
ふん、と真理亜は炎の言葉を否定する。男たちは頭に来たようで、真理亜の腕を掴み上げた。思わず悲鳴を上げる真理亜の腕を取っている男を蹴りつけ、炎は素早く飛びかかってくる相手をかわして足を引っかけ転がした。
「早く逃げろ!」
真理亜を逃がすと炎は身構える。再び飛びかかってきた男たちを余裕でかわしていた炎だったが、次第に慣れない下駄や浴衣捌きと昼間に痛めた足のせいで動きが鈍くなり、木の根に足を取られて地面に転がってしまった。
「へへっ、どーしたぼーや、さっきの勢いは」
「く、くそっ」
足がじんじんと痛む。下駄は脱げてしまったから動きはまだましになったが、その分痛みが倍増してきた。
これは楽勝と男たちが炎に飛びかかる。だが、どこからか飛んできた石が二人の額に当たり、痛みに身を屈めて男たちは呻いた。