「なん…だよ……」
「足下が暗い…そんな足では危ないぞ」
海は炎の手を握ったまま有無を言わさず歩き始めた。仕方なく炎も歩き始める。炎は自宅前に来るまで海の家へ向かっていると思っていた。
「家の方はいらっしゃらないのか」
「ああ…今日は帰らないんじゃねーかな」
明かりのついていない家を見て海が訊ねると、炎はこともなげに応えた。毎日帰りが遅いか、帰ってこない方が多いのだ。
「カイ?」
居なくて当たり前という感じで言う炎に眉を顰め、海は門を開いて中へ入っていった。慌てて炎も着いていく。玄関の鍵を開けると当然という感じで海も入ってきた。
「手当しなくてはならないだろう…上がらせて貰うぞ」
「一人でも出来るぜ」
炎の言葉を無視して海は上がり、ちらりと家の中を見てとると、風呂場へ向かった。
「汚れを落とせ…薬箱はどこだ?」
「台所の棚…」
何を言っても無駄かと、炎は渋々答えシャワーを浴びに風呂場に入った。泥だらけの浴衣を洗濯機に放り込み、シャワーを浴びた後短パンとタンクトップに着替えて自分の部屋に上がる。扉を開けて入った炎は、雑然とした部屋の真ん中に正座して待っている海に苦笑いを浮かべた。
「おまた」
髪を拭きながらベッドに腰を下ろした炎は、海に言われて足をその上に伸ばした。ひんやりとした湿布が気持ちいい。海は手際よく包帯を巻き止めるとそのままじっとしている。
「カイ?どうしたん」
海は炎の問いに応えず、するりと手を上へ滑らせた。膝小僧を通り過ぎ太股まで撫で上げる海の手に、炎はぞくりと悪寒を感じびっくりして見つめた。
「エン…聞いて欲しい…」
低く真摯な声で話しかけられ、炎はびくりと背筋を伸ばす。視線を上げ、目をひたと見つめて話し出す海に、炎はごくりと唾を飲み込んだ。
「な…なんだよ…」
「私は…もっと冷静だと思っていた…自分を律することが出来ると…こんなに突然に自分の気持ちが抑えられなくなるとは…」
海は言いながら身体を上げ、炎の両脇に手をつく。じりじりと迫られて炎はとうとうベッドに完全に横になってしまった。
「…ぐ、ぐだぐだ言ってねーで、はっきり言えよ!」
いつもと違ってはっきり言わない海に、炎は怒鳴りつける。だが、次の瞬間怒鳴ったことを後悔したが後の祭りである。
「好きだ!…私はお前が…好きだ。こんな風に…なるほどに」
青天の霹靂とはこのことだ。海の言葉に愕然とし、さらに押しつけられた下半身の熱さにもっと驚愕して炎は目を見開いた。
「…愛している…お前が欲しい」
「…お、俺は欲しくない……って…わーっ」
タンクトップをくぐって背中を這う手に、炎は逃げようと身を捩った。海がそんなことを言うのも驚いたが、欲情していることにもっと驚く。海も男だったんだなあと頭の隅で感心したが、それが自分に対してだということが信じられなかった。
海の手はもがく炎の身体を的確に這っていく。身を返してずりあがろうとする炎を背中から抱きしめ、海は前へと手を伸ばした。
「う…っ…」
片手で胸をなぶり、もう片方の手で炎自身を短パンの上から握りしめ海は性急に快感を高めていった。背中にぴったりと張り付いた海を退けることも出来ず、炎はただその手を押さえるしかなかった。
短パンがずり下げられ、直に握りしめられる。すでに熱くなっていたそこは、海の手によって頂点まで行くのに時間はかからなかった。
「…ふ……ぁ……っ…」
己の手のひらに解放し、荒く息を付く炎の腰を上げさせると、海は濡れた指を秘処に挿入した。一瞬身を強張らせる炎の前部を再びゆっくりと扱き、意識を攪乱させる。
「あ…あぁ…」
「エン…愛している…ずっと共に…」
海の低い声が聞こえたかと思った時には炎の身体に激痛が走っていた。入れるべき所ではない場所に無理に挿入され、痛みが全身に走る。唇を噛みしめて悲鳴を堪えた炎は、ぎゅっとシーツを握りしめた。
「……い…て…ぇ……っ…」
冷や汗が流れ硬直する炎とは逆に、海は暖かい内部に包まれて至福の境地で抱きしめた。何度も往復しない内に海は果て、息を付く。しっかりと抱きしめた炎の身体を返すと、青ざめた額に口付けた。
「…エン……」
「……くしょ……てめー…嬉しそうだな…」
自分はこんなに痛い思いをしたというのに、海はとっても嬉しそうににこにこと笑っている。それが悔しくて炎は涙目で睨み付けた。
「…ああ、嬉しいとも…そんな目で見られると……もう一度抱きたくなる…」
海の言葉に炎は真っ赤になって目を逸らした。こんなことを言う奴だとは思っても見なかった。どこか壊れてるんじゃないだろうか。
「花火は残念だったな…」
「ああ…まーまた来年見ればいいし…」
そんなことをのほほんと言ってる場合じゃない気がするが、海の問いに律儀に応え炎はため息を付いた。やっちゃったもんは仕方がない。それに…
「ほんとにお前…俺のこと…す…好き…なのか?」
面と向かって言うのは恥ずかしい。だが、海はあっさり頷いた。
「ああ…好きだ…」
「はあ…」
炎はぐったりとシーツの上に伸び、考えるのは明日にしようと、海が物問いたげに見てるのを感じながら目を閉じた。