金魚すくいの前まで来ると、そこには浴衣姿の真理亜と学が立っていた。普段の制服や私服とは違って浴衣姿が新鮮に見える。
 「あ、エンも来てたんだ?」
 「あれえ〜マリアちゃん今日はすごーく可愛いじゃん」
 「そう?ふふっ、ありがとう、シン」
 「そうだな、馬子にも衣装ってやつだな」
 炎の一言に真理亜はむっとして睨み付けた。
 「なんですってえ!」
 「ま、まあまあ…マリアさんも花火見物ですか?」
 睨み合う二人の間を取りなすように翼が入り、訊ねる。真理亜はよくぞ聞いてくれたというように、勢い込んで話し出した。
 「ええまあ、それもあるんだけどね。実はこの裏山の祠に霊が出るって噂なの。それを確かめに来たの」
 嬉しそうに語る真理亜に、やっぱり姿は変わっても真理亜は真理亜なのだなとみんなは呆れて見返した。
 「マリア〜、金魚すくいやろうぜ」
 「ダメよ、どうせ育てられなくてすぐ死んじゃうんだから」
 「えー、大丈夫だよ。絶対育てるからさー。やろう」
 「よっしゃあ、俺と競争だ!」
 押し切られる形で頷く真理亜に、嬉々として学は炎と金魚すくいで勝負し始めた。だが、紙はすぐに破れ、一匹しか捕まえられない。
 それ以降次々に取り替えても破れてしまう紙に次第にイライラとして炎は乱暴に次の紙を要求した。
 「そんなに力任せにしていてはすくえないぞ、貸してみろ」
 後ろからすっと手が伸びて海は炎から紙を取り上げると、隣にしゃがみ込み、気合い一閃金魚を2匹すくい上げた。おお、と見ていた観客がどよめく中、海は次々と同じ紙で金魚をすくっていく。周りから拍手が起き、ボールに10数匹溜まった頃、もういいだろうと海は紙を炎に返した。
 「ちぇっ、いいとこ持ってくんだもんなあ」
 「ふっ、まだまだ甘いな」
 そんなにいっぱいは飼えないからと2匹だけ選んで学に渡し、屋台の前から離れた炎はふてくされながら境内の奥へと入っていった。


 そろそろ夜店が途切れた所に神社の本殿があり、その裏には小さな山がある。さっき、真理亜が言っていた祠などもあそこにあるのだろうか。
 「みんなそのお化けを見にいくんかね」
 他のみんなもぞろぞろと裏山へ向かっていくのを見て、炎はぼそりと呟いた。
 「花火を見に行くんだよ」
 「そうですね。この山の上からならよく見えますから」
 森と翼の言葉になるほどと頷き、炎も山へ入っていく。次第に薄暗くなり、静かになっていく周囲に炎は僅かに歩く速度を緩めた。
 「怖いなら、私が手を引いてやろう」
 「馬鹿言うなよっ、怖いわけねーだろ」
 にやりと笑って手を出す海を睨み、炎はずかずかと足を早め山へ上がっていく。
 「おーい、間違えてマリアちゃんが言ってた祠の方に出るなよ〜」
 森のからかうような声が聞こえたが、無視してどんどん上っていった。あまりにむかついていたため、周囲にほんとに人の姿が無くなり、道も狭くなっていることに気付かない。はっと我に返った時には、辺りは真っ暗で微かに月明かりが道を照らしているだけだった。
 「カイ?…シン、ヨク…」
 これは別の道に来てしまったかと、蒼くなって引き返そうとした炎は、ふと微かな悲鳴が聞こえた気がして足を止めた。

★声が聞こえた方に向かう    ☆無視して広い道の方へ行く