山の中腹にある広場まで来ると、穴場とはいえ結構知られているのか人が多い。それでも隙間を見つけて4人は街が見下ろせるベストポイントに居着いた。
「もうすぐ始まるかな」
ざわざわと興奮がみんなを包んでいる。誰かの低い叫びに夜空を見上げると、一番目の小さい花火が天に華を咲かせていた。
「おっ、始まった〜」
それを皮切りに次々に花火が打ち上げられていく。最近の花火はバリエーションも多く、今日は風もないので綺麗に上がっているようだった。
「…綺麗だな……」
「わっ、リュウ…いつのまに来たんだ?」
ぼそりと声を掛けられて、炎はぎょっとして隣を見た。さっきまでそこには森が居たはずである。
「さっきだ」
「相変わらず神出鬼没な奴…ま、いっか…ほんと綺麗だよなー」
にっと笑って言う炎を竜はじっと見つめている。一旦は花火を見るために視線を外した炎だったが、竜の視線が自分から離れないことに気付いて何だ?と見返した。
「花火…見ないのか?」
「もっと綺麗なものを見てるから…いい」
「……は?…」
にっこりと笑って言う竜に、炎は冷や汗を浮かべて見返した。もっと綺麗なものとは…何だろうか。訊くのも怖い気がする。
「確かに綺麗だな」
もう一方の隣に居た海の言葉に、炎はぎくりとして顔を向けた。海もまた、天を見上げず自分をじっと見つめている。
「お…おいおい…花火は空だぜ、俺見たってしょうがないだろ」
ぱん、と2人の背中を叩いた炎は、その手を2人に取られて、身を強張らせた。2人はぎゅっと握りしめて離さない。
「…エン……」
「エン…」
からかってるのか、冗談なのか、と思ったが2人の目は至って真剣で、炎は手を振りほどくことが出来なかった。
誰かなんとかしてくれ〜と言う炎の心の叫びが聞こえているのだろうが、側にいたはずの森と翼は触らぬ神に祟りなしとそそくさとその場から逃げ出した。
どーん、という腹に響く大きな音に、はっとして炎は天を見上げた。今回一番の大玉が打ち上げられたのだ。火花や爆発はダグオンとなってから数多く見ているけれど、この空に咲く華はそれとは違って綺麗で楽しく心に響く。
にっこり笑いそんな風に花火を見ている炎の頬に写る華の明かりを、両隣の竜と海はずっと見続けていた。