intermedio



 目が覚めて一番に飛び込んできたのは、茶渡の珍しい驚き顔だった。普段から口数少なく喜怒哀楽をあまり表に出さない茶渡の目が見開かれている。一護は二、三度瞬きをすると、口端を上げて笑いかけた。
「よお、どーした、そんな顔して」
「……いや、起きるとは思わなかったから」
 どういう意味だと一護は眉を寄せ、肘を突いて起きあがろうとした。身体が僅かに揺らぎ、再び倒れ込みそうになる所を茶渡が支える。それに縋り、一護は自分の腕を見て、こんなに力が入らないのは何故かと首を捻った。
「まだ、横になっていた方がいい」
「何で……、あ、そっか」
 ようやく今までの出来事を思い出し、一護は拳を握り締めると言われたとおり横になった。ルキアを救うために尸魂界に来たこと、藍染が全ての黒幕で、結局崩玉を奪われあっさり殺されかけたこと、その間の様々な出来事が頭の中を駆けめぐる。
 唇を噛み締め、強く握り締めていた拳を解くと一護は改めて周囲を見回した。意識を失う前は双極の丘に居た筈。
「ここは、十三番隊の隊舎だそうだ」
 問いたげな一護の視線に、茶渡が説明する。確か恋次が六番隊で剣八が十一番で、十三番て誰だっけと考えていた一護は、聞こえてきた足音に視線を巡らせた。
「目が覚めたのかい? 良かった。気分はどう? 食事はできそう?」
 入ってきたのは長い白髪の男で、嬉しそうに一護を見て話しかけてくる。一護は取り敢えず頷いた。
「あの、どちら様で」
「ん? ああ、私は十三番隊長の浮竹だ。本当は四番隊隊舎の方が治療に専念出来るんだが、彼女の能力で君には必要ないと言われてね」
 にこにこと気さくに話す浮竹に、一護はただ訳が解らず聞いている。どうやらあの後、病院のような所ではなく、ここに運ばれたのは理解できたが、何故なのかというところが抜けていた。
「とにかく、ゆっくりしていってくれ。後で食事を運ばせるから」
 じゃあ、と言って浮竹は去っていった。目を白黒させながら、一護は黙って横に座っていた茶渡に顔を向ける。
「彼女って誰だ」
「井上のことだろう。今は別の部屋で寝ている」
 やっと解って一護は大きく溜息を付いた。織姫が必死に自分の治療をしていたのは記憶にある。あれだけの大怪我をここまで回復させたのだから、かなり霊力を使ったのだろう。すまなかったなと思いながら、一護は他に姿を見せない者の事を思い出した。
「石田は? そうだ、ルキアはどうしたんだ」
「心配ない。ちゃんと別の部屋に居る。俺はちょっと早く目が覚めたから」
 ここに来たと茶渡は一護に告げた。
 双極の丘で藍染と対峙したのが夕刻、それから夜中過ぎまで一護の治療が続き、やっともう大丈夫だと確信したところで井上が倒れ寝入ってしまった。自分たちの身はまだ旅禍という状況から脱してはいず、どうしたらいいかと途方に暮れていた時、浮竹がまるで自宅に友人を招くような口調で隊舎に来たら良いと言ってくれた。
 その言葉に甘えて各自与えられた部屋で寝たのだと話す茶渡に、一護はようやく納得した。
 どうやら死神たちはもう自分らを敵だとは思っていないらしい。藍染を逃したのは癪に障るが、なんとかルキアだけでも助けられて良かったと、一護は安心して目を閉じた。
 ふと耳に残る声に、一護は再び目を開き起きあがった。慌てて支えようとする茶渡を制し、痛む額に手を当てる。
 あの時、気を失う寸前聞こえた声は幻聴では無いと思う。確かにこの耳に残っている。あの、朽木白哉が自分に言った言葉が。
「どうしたんだ、一護」
「あ、いや、うん。腹減ったなと思って」
 一護の言葉に僅かに眉を上げ、茶渡は見詰めた。この友にごまかしはあまり通じないが、追求もしてこないだろう。一護は手を退けると茶渡に笑いかけた。
「なら何か貰ってこよう」
「大丈夫だ。もう立てる」
 勢いを付けて立ち上がった一護は、自分の身体を見下ろした。ばっさり斬られていた胴体は僅かな痛みしかない。着ている死覇装は寝ている間に取り替えてくれたのか、それとも怪我と一緒に織姫の能力で元に戻ったのかどこにも裂けた様子が無かった。
 井上の能力ってほんと便利だけど不思議なもんだと感心しつつ、一護は部屋を抜け出した。
「わっ」
「っと」
 隣の部屋から飛び出てきた雨竜と鉢合わせして、一護は思わず声を上げ一歩下がった。焦った表情の雨竜は一瞬一護の顔を見て目を瞠ると、軽く息を付いて眼鏡を押し上げた。「驚かせるな」
「驚いたのはこっちだ。何焦ってんだよ」
「それは君が」
 むっとして訊く一護に、雨竜は続けようとした言葉を止めた。益々憮然とする一護の視線から避けるように雨竜は身を返すと、先に立って廊下を歩き出す。
「おい、石田」
「一護、石田も昨夜ずっと付いていた」
 ああ? と振り返った一護に、茶渡は言葉少なに説明した。本当に大丈夫か明らかになるまで共に居たという茶渡の言葉に、一護は眉を寄せたまま照れたように頬を掻き、あさっての方を向く。
「んな心配いらねっつの。……ま、ありがとな」
 礼を呟くように言い、一護は雨竜の後を追って歩き出した。次の部屋へ入っていくと、真ん中に布団が敷かれ織姫が横になっていた。その側には見知らぬ女性の死神が付いている。
「まだ、起きる様子はないですか」
「身体の方はもうなんとも無いと思うんだけど、もう少ししたら姉さんに診て貰えるよう頼んでみる」
 雨竜の問いに、その死神は答えて心配ないと笑った。一護は布団の脇に正座し、じっと彼女の寝顔を見詰めた。
「多分、霊力だけでなく気力も随分使ったんだと思う。疲れて当然だ」
「ああ」
 それは織姫だけでなく、ここにいる全員そうだろう。自分以外の者に何があったかまだ知らないが、みんな死ぬ思いで戦ってきたに違いない。
 そのことを思ってしんみりと座っていた一護は、大きな音にぎょっとして目を見開いた。何の音だと、周囲を見回すうちに再び音が鳴る。全員の視線が織姫の元に集まって、その眉間に寄せられた皺を見詰めた。
「うーーん、お腹すいたあー」
 ぱち、と音がするように織姫は目を開き、両腕を上げて伸びをすると大きな声で言った。呆然とする一護たちに気付くと、織姫は驚いた表情で起きあがった。
「井上、大丈夫なのか」
「大丈夫…っていうか、黒崎くんこそ、もういいの?」
 逆に問い返されて一護は焦りつつ頷いた。良かったとにっこり笑う織姫の腹がみたび鳴る。呆然としていた死神は苦笑を浮かべながら立ち上がり、直ぐに食事を用意すると言って出ていった。
「腹の虫の音で目が覚めるってなあ」
「てへ」
 頭に手を当て舌を出す織姫に、みんなの口から笑いが零れる。そう言えば、尸魂界へ来て笑ったのは久しぶりだと一護はしみじみと思った。
 何日ぶりかの食事を済ませると、一護は付き添っていた清音に遠慮がちにルキアのことを訊ねた。朝から随分経つのに顔を見せないことに腹を立ててる訳ではない。何かあったのか、まさかまだ罪人として扱われているんじゃないだろうなと一護は少し不安に思ったのだ。
「あれは藍染隊長、もとい元隊長か、の謀略だったんだから朽木さんになんの落ち度もないの。今は朽木隊長の所に居る筈よ」
 朽木隊長と言う言葉に一護は僅かに鼓動を跳ねさせた。何故だと訝りつつ詳しい話を清音から聞き出すと、ギンの刃からルキアを守った時の傷はかなり深く、現在綜合救護詰所で治療中だという。
 あの時、霞む意識の中でルキアに話す静かな白哉の声が聞こえていた。死闘を演じた時知りたかった答えの全てが、ルキアへの語りかけを通して一護に伝えられた。
 耳に残っている最後の礼の言葉をはっきりと思い出し、一護は少しくすぐったい思いを抱いて目を伏せた。
「顔が赤い」
「う、なにっ」
 ぼそりと茶渡に告げられ、一護は両手で顔を押さえた。冗談だと告げる茶渡の腹に肘を打ち込み、一護は足音も荒く廊下を歩きだした。
 茶渡は冗談だと言っていたが、自分でもほんの少し顔が熱くなったような気がしたのだ。何故かは解らないが、どうも白哉の声や言葉を思い出すと、胸の奥がざわめくような気がする。
 それは今までなら、もの凄く強い敵に相対する時の昂揚感とか畏れとかそんなものだったと思うが、もう敵ではないのにどうして落ち着かないのだろう。
 考えているうちに一護は偶然玄関らしき場所にたどり着いてしまった。部屋に戻るべきか、外に出ようか二秒ほど思案していた一護は、後ろから肩を叩かれて我に返った。
「どこへ行くつもりなんだ」
 振り向くと、息を荒げながら雨竜が問うてきた。その後ろには同じく肩で息をしている織姫と見かけは変わらないが多少汗を浮かべ茶渡が立っていた。
「お前ら」
「足、早いね、黒崎くん。ここ凄く広いから追いつくの大変だったよ」
 うむ、と茶渡も小さく頷く。何で追いかけてくるのかと眉を顰めて見ていた一護の襟元を、雨竜は掴み上げ怒りの形相を近付けた。
「別に心配してる訳じゃないが、右も左も分からない所に怪我人一人で出かけようとするのを止めるのは、人間として当然だと思うが」
「平気だっつの、怪我は治ってんだし」
「なら僕の手を振り払える筈だ」
 雨竜の言葉に腹を立て、一護は胸ぐらにある雨竜の腕を掴んだ。引き剥がそうと力を込めるがなかなか取り除けない。ムキになって両手で雨竜の腕を外そうとすると、一護の息が僅かに上がってくる。
「石田くん、やめて。黒崎くんも無理しないで」
 焦って織姫が二人の間に割って入る。力が入らない自分の手を眺め、愕然とする一護の襟をようやく離し、雨竜は大きく息を吐いた。織姫と茶渡の顔を窺うと、同意するように苦笑いを浮かべて一護を見ている。
 自分の非は認めたものの、荒っぽすぎる止め方だと一護は雨竜を恨みがましい目で見詰めた。
「何処へ行くつもりだったの」
「ん、いや、ちょっとルキアのとこまで」
 綜合救護詰所に居るらしいと言うと、呆れたように溜息を付いた雨竜が一護の顔に指を突きつけた。
「それが何処にあるか知ってるのか、君は」
「しらねーけど、誰かに聞きゃいいだろ」
 心配かけたのは悪いが、そんなに苛々することはないだろと一護は憮然として雨竜に言い返した。
「は、甘いね、ほんとに。確かに僕らはもう瀞霊廷にとって侵入者ではなくなったけれど、それを死神全員が知ってるとは限らない。下っ端ほどそういう事情には疎いものだ。普通知ってる筈の建物を訊いて不審がられたらどうする」
 そんなん知るかと一護は呟いた。掛かってくるようなら倒すまで。いくらまだ怪我の具合が良くないからといって下っ端死神などへでもない。
「いちいち考えすぎなんだよ」
「ま、まあまあ、石田くんは黒崎くんのことを心配してるんだし」
 そんな態度の一護に、雨竜は世話になってるこの隊の迷惑になるだろうと怒鳴った。睨み合う二人の間に立って織姫が宥めるが、険悪な空気は止まらなかった。
「あれえ、みなさんおそろいで、どこかへお出かけですか」
 そんな空気をまったく読まないのほほんとした声が入り口の方から掛けられる。一護と雨竜はその声の主を揃って睨み付けた。
「……お邪魔でしたか。出直して」
「待て」
 踵を返した花太郎の襟首を茶渡が掴み引き留めると、絞められた喉で潰れたような悲鳴を上げた。
 はっとして茶渡は襟を離す。花太郎は咳き込みながら涙目で振り返った。すまんと謝る茶渡に、いえいえと首を振った花太郎は何か揉めてるんですかと訊ねた。
「それでしたら僕がご案内しますよ。元々僕の所属する隊ですし」
 話を聞いた花太郎はそう言って胸を張った。それなら文句はないだろと一護は雨竜に目で訊く。雨竜は僅かに渋い表情を見せたが、頷いた。
 話が付いたところで茶渡と雨竜はここに残ると言い出した。藍染の残した傷跡は大きく、救護所とやらはまだ慌ただしいだろう、全員で行ったら迷惑になるからと言う雨竜に頷いて、一護は織姫と共に花太郎に付いていった。
「もう大分具合はよさそうですね」
「まあな。本調子とはいかないが、そっちはどうだ」
「怪我人が多くてちょっと大変ですが、四番隊みんなで頑張ってます」
 その怪我人のうち半数くらいは一護達が出したものだ。仕方ないとはいえ、少し責任を感じてしまう。
 綜合救護詰所に着いた一護たちは、時折すれ違う死神に戦かれながら廊下を歩いていった。廊下の向こうから歩いてくる見覚えのある女性に、花太郎は立ち止まり一礼する。
「怪我はもう随分いいようですね」
 柔らかな笑みを浮かべ言う卯ノ花に、一護は黙礼した。
「あ、あの、朽木さんは大丈夫ですか」
 そういえば自分を手当てした後、眠ってしまったという織姫もルキアの処遇を知らないのだと気付いて、一護は尋ねるように卯ノ花を見詰めた。
「朽木ルキアさんなら多少霊力が削がれて体力も落ちている他は無事です。朽木隊長の側に付いていると思いますよ。三階です」
 ほっとしたように笑顔を浮かべる織姫の隣で、一護は白哉の怪我の容態も訊きたかったが拳を握り締め堪えた。
 そんな一護の態度に気付いたのかどうか、卯ノ花は笑みを深くして微かに頷くと歩み去っていった。
「よかったあ、ね、黒崎くん」
「あ、ああ」
 一護の様子に首を傾げながらも、織姫は足取り軽く花太郎の腕を取って先に歩きだす。泡喰う花太郎と鼻歌でも歌いそうな織姫の後から一護は訳の解らない感情を振り払うように首を振りつつ、付いていった。
 下の部屋と違い、三階は個室になっているようだった。そのへん、現世の病院とあんまり変わらないなと感心しながら奥へ歩いていく。立ち止まった花太郎は、ここですと入り口をノックして待った。
 中から小さい声が聞こえたが内容は判らず、ぼーっと突っ立って待っている花太郎に苛立って一護は扉を乱暴に開いた。
 途端に中から何かが飛んできて一護の顔にぶつかる。痛みに涙目で赤くなった顔を一護は部屋の中に向けた。
「な、なにしやがる」
「馬鹿者! 静かにせんか」
 小声で怒鳴るという器用なことをしながらルキアが部屋から出て、後ろ手に扉を閉めた。憤懣やるかたないという表情のルキアに、一護は鼻白んで顔を撫でた。
「どうしたの、朽木さん」
 焦ったように織姫は不機嫌そうなルキアに訊ねる。ルキアは腕を組み、大きく吐息を付いて小声で話し始めた。
「まだ兄さまは休んでいる。騒がしくするな」
「そんなに具合悪いのか」
 吃驚して問う一護に、ルキアはきつい視線を向けた。
「治療は済んだ。ただ、少し療養が必要だと」
 白哉の怪我も自分のそれもさほど違わないと思ったが、最後の一撃が堪えたのだろうか。ルキアは自分のせいだと感じているのか、ふと視線を床に落とし唇を噛み締めた。そんなルキアの様子に、一護もそれ以上何も言えなくなる。
「ま、まだお休みになっているなら、お見舞いは後ほどってことで。下で美味しいお茶でもいかがですか」
 気まずい空気になったのを察した花太郎がぽんと手を打って提案する。それは良い案だと便乗して織姫がはしゃぎ、ルキアの手を取ると歩き始めた。
 やれやれと頭を掻き、一護も後に続こうとしてふと足を止め、そっと扉を開いて中を覗き込んだ。白いシーツから僅かに見える黒い髪、目を閉じた横顔は血の気が無く、一護は足下から冷たいものが這い上ってくるような感覚に身体を強張らせた。
 だが、窓から吹き込む風が髪を揺らし、今見た表情とは違う様相を見せる。寝顔は苦しげだったが確かに生きている者のそれで、一護は安心すると同時に僅かな焦燥感に見舞われた。
 静かに扉を元通りに閉め、一護は廊下を歩きだした。あんな姿を見ると、母親のことを思い出して胸が痛む。自分を庇って虚に殺された母親、次に目覚めた時は病院で白いシーツに包まれていた。
「遅かったな、一護」
「おまっ、なんで居るんだよ」
 思いに耽っていた一護は、控え室のような場所でとても目立つ赤い髪を見出して驚いて指差した。差された恋次は不満そうな顔で一護を睨み付ける。
「一応俺も怪我人だからな」
 ああ、そういえば、と納得する一護に思い切り嫌そうな顔を向け、恋次はお茶を啜った。あれだけ一緒に闘っておいて、忘れくさるとは何事だとぶつぶつ言う恋次に、一護は軽く謝り腰を下ろした。
「で、もう平気なのか」
「完全に治るにはまだまだだけどな。お前は元気そうだな」
 化けもんか、と聞こえないように呟いたつもりの恋次に手を回し、一護はぎりぎりと締め付ける。地を這うような悲鳴を上げる恋次に、周りは慌てて仲裁した。
「こんなとこで止めてくださいぃ」
「やめんか、馬鹿もんが。ここは治療する所であって怪我人を増やす場所ではないわ」
「黒崎くん、恋次くん、落ち着いて」
 がたん、と大きな音が一護達の後ろから聞こえた。振り返ると小さな影が威圧感だけは誰よりも大きく、一護達を睨んでいる。
「煩いぞ、ここは綜合救護詰所の筈だが」
「あ、すまねえ」
 ぱっと手を離し、一護は両手を上げた。痛む首を撫でていた恋次は相手が誰か認識すると、慌てて姿勢を正し一礼する。ルキアや花太郎も立ち上がってその小さな影に礼を取った。誰だ? と小声で花太郎に一護は訊ねる。答えを聞いた一護は驚いて相手を凝視した。「隊長? こんなちっさい子供が?」
「小さいは余計だ。黒崎一護」
 ぴくりと眉を上げ、冬獅郎は一護を上から下まで眺めた。ぶしつけな視線に一護の眉も上がる。
「何か用か? 小さな隊長さんよ」
「こ、こらっ、一護」
 焦ってルキアが一護の袖を引く。だが、一護は眉を寄せたまま、冬獅郎の視線に真っ向から対峙した。
「日番谷冬獅郎だ。藍染と闘ったと聞いたが」
「ああ、そういやあんたもだってな。…逃がしちまったけど」
 視線を逸らし、一護は小さく呟く。冬獅郎は苦笑を浮かべ踵を返した。
「お互い生き残れて良かったな、黒崎。次は捕まえられる」
「まったくだ。次は絶対逃がさねえ。俺がこの手で倒すぜ、冬獅郎」
「日番谷隊長、だ」
 顔を引きつらせ、冬獅郎は去っていった。緊張していた空気がほぐれ、恋次や花太郎は大きく息を吐いて椅子にへたり込んだ。同じくぐったりしているルキアに、一護は心配そうな顔を向けた。
「おい、大丈夫か? まだ具合が…ぐほ」
 ルキアの肘が綺麗に腹に決まり、一護は呻いて床に崩折れた。痛みを堪え、一護は上目使いに仁王立ちしているルキアを見た。
「悪く見えるのは貴様のせいだ! 何だあの態度は」
「いや、だって、俺には別に隊長って関係ねーし。つーか俺も一応怪我人なんだけど」
 それでも礼儀というものがあろうが、と火を噴きそうな形相で怒るルキアを、織姫が冷や汗を浮かべながら宥めた。
「あれ、うちの隊長居なかった」
 ようやく普通に座り、花太郎からお茶を貰った一護がほっと息を吐いた時、巨乳美人が顔を覗かせ訊いてきた。
「さっきまで居ましたよ。こいつと揉めて出ていきました」
 恋次に指差された一護に、乱菊は片眉を上げ興味深そうな視線を向けた。かなりの上機嫌で一護の側に寄り、顎に手を掛け自分の方を向かせる。男相手ならいくらでも強気になれるのだが、慣れない年上美女相手で一護は戸惑い焦っていた。
「へーえ、あんたが黒崎一護か。うちの隊長と揉めたって? やるわねえ、人間なのに。あら、こっちにもかっわいー子がいる」
 きらりと目を輝かせ、乱菊は成り行きに呆然としていた織姫に抱きついた。驚いて動けずなすがままでいた織姫に、乱菊はすりすりと頬を寄せる。
「あ、あの、乱菊さん。日番谷隊長探してたんじゃないすか」
 遠慮がちに声を掛ける恋次に、乱菊は思い出したようにそうだったと声を上げると、織姫を解放して手を振り去っていった。
 嵐のような出来事に、一同はすっかり疲れて黙り込む。どうやらここは病院でいうところの待合室と面会室を兼ねたような所で、このままでは今のようなことが何度も起きそうだった。
「白哉はいつ目を覚ますんだ?」
「酷い怪我だったから…時折覚醒はするが、まだ長く話せる状態ではない」
 ルキアの言葉に、一護は宥めるように肩を叩いた。
「そうか。でも、お前は元気そうで安心したぜ」
「うん、良かったほんとに。お兄さんも早く良くなるといいね」
 一護と織姫の言葉にルキアは微笑を浮かべ頷く。
「一護、ここで治療を受けなくても良いのか? さっきは済まなかった」
「ああ、大丈夫だって。昨日まで侵入者で敵だった奴と一緒ってのはみんな落ち着かないだろ。浮竹さんは良くしてくれるし」
 ぼりぼりと頭を掻いた一護に、ルキアは僅かに痛むような表情を浮かべた。そんな顔すんなって、と笑い一護は立ち上がる。
「さて、戻るか。うるせーのが心配してんだろ」
「そだね、朽木さんは?」
「私は、ここに残る」
 ルキアの言葉に頷いて、二人は綜合救護詰所を後にした。行きには気付かなかったが、あちこちで一護達を見ている死神が、ある者は驚愕の表情で、ある者は怖れ異端者を見るような目で囁いている様子が分かる。
 まあ、あれだけ大騒ぎになったのだから仕方ないなと、一護は苦い溜息を付いた。
「面白い人たちだったね。冬獅郎くんと乱菊さん」
「ここの隊長ってのは、みんなどっか変だぜ」
「そ、そんなこと…ないですよ」
 今まで出会った隊長と呼ばれる者達を思い浮かべ、一護が織姫に言うと、小さい声で花太郎が否定する。完全に否定しきれないのか、一護の目を見ず視線は泳いでいた。
 十三番隊隊舎に着くと、門の前で浮竹が待ちかまえているのが見えた。そわそわと落ち着かない様子で立っていた浮竹は二人の姿を見てとると、ほっとしたような表情を浮かべた。
「やっと戻ったか。大丈夫かい、一護君。まだ本調子じゃないんだから、暴れたりしちゃ駄目だよ」
 暴れてって、と一護は目を見開いた。何故そんなことを言うのだろう。救護詰所でのことを見てた訳じゃあるまいに。
「暴れてなんかいませんよ」
 むしろ暴れてたのはルキアの方だと一護は鳩尾を撫でた。いくら傷は治っているとはいえ、綺麗に決まったものだから奥の方が鈍く痛むような気がする。
「それじゃ僕はこれで」
「あ、おい、花太郎」
 返ろうとした花太郎を呼び止め、一護は手で招き寄せた。不思議そうな顔で近寄る花太郎の頭を引き寄せ、一護は耳元に口を寄せた。
「えっ、ええとぉ。はい」
 花太郎は次第に青ざめ冷や汗を流していたが、観念したのか頷いた。ふらふらと去っていく花太郎の姿に、織姫は訝しげに一護を見た。
「何言ったの?」
「ルキアがちゃんと休むよう見張って、殴ってでも休ませろっつった」
 一護の言葉に納得して織姫は大きく頷き、でも暴力はいけないから子守歌にすればいいんじゃないと提案する。花太郎の子守歌がどんなものか知らないが、余計眠れなくなる気がしないでもないと、一護は唸った。
「話が済んだら入って入って。君たちの事を話してくれ」
 にこにこと言って促す浮竹に、返事をして織姫と一護は十三番隊隊舎に入った。ちらりと振り返り外を見た一護は、憂慮に眉を顰め首を振ると中に入っていった。
 夕陽が空を焦がし、一番星が地上すれすれに輝く様を縁側から見ていた一護は、ふと後方に気配を感じて振り返った。
「何だよ、石田。驚かすな」
 黙ったままじっと見詰める雨竜に、居たたまれない様な思いがして一護は視線を空に戻した。
「今日はこの夕焼けも穏やかに見られるな」
 いきなり何を言い出すのかと思ったら、そんなことかと一護は苦笑した。一日も経つとあの出来事がまるで別の世界のことに思える。初めてルキアと出会って、死神となった時も翌日は夢だと感じていた。
「でもまだ終わっちゃいない」
 言外の意味を汲み取って、雨竜はふっと笑みを浮かべた。たとえ藍染を倒したとしても、虚が居なくなることはない。また、こんな風に死にかけることもあるだろう、戦い続けている限り。
「ところで君、まさか行くつもり」
「……行くってどこへ」
 一拍置いたのは図星だったからだ。それを察した雨竜の眼鏡が冷たく光る。一護は視線を逸らすと縁側から部屋の中へ戻った。
「時間は定められているんだろ。明日にすればいい」
「お前は何で行かねえんだよ」
「君は馬鹿か。僕は死神とは相対する滅却師だ。そうそう死神だらけの中へ行けるものか」
 その割に死神んちにお世話になってるじゃないか、と心の中で呟いて一護は眉間に皺を寄せた。それにしても、何で分かったんだと首を捻りつつ、一護は廊下に出た。はっとする雨竜の腕を躱し、庭から塀の上に飛び乗る。
「止めるんだ、茶渡君」
「え?」
 丁度出てきた茶渡に雨竜は命令する。訳が分からず呆然とする茶渡の腕を引き、雨竜は塀の上の一護を指差した。
「あの馬鹿、身体がまだ本調子じゃないのに」
「大丈夫だ。直ぐ戻る」
 片手を上げ、一護は外に姿を消した。済まなそうに見る茶渡に首を振り、雨竜は拳を握り締めた。
 飛び降りた一護は脇腹に僅かに痛みを覚え、よろめいた。みんながあまりに身体の怪我のことを言うから意識がそっちに向いたかと、痛む部分を撫でる。痛みは直ぐに消え、一護は昼に行った綜合救護詰所に向かった。
 現世の都会の夜と違い、瀞霊廷内は陽が沈むと所々にある灯籠に火が付けられぼんやりと地を照らし出していた。人影は見えないが、霊圧を探ると時折見回り人だろうか、いくつか感じ取れる。
 まるで時代劇の夜みたいだと感心しながら一護は走っていた。見覚えのある場所にたどり着くと、一護はほっと額に浮かんだ汗を拭い中へ入っていく。
「こんな夜に何用だ」
「うわっ」
 自分で自分の悲鳴を抑え、一護は固まった。闇の中から声の主が姿を現し、月明かりがその表情を照らし出す。愉快そうに口角を上げた口から楽しげな声が発せられた。
「なんじゃ、化け物でも見たような素っ頓狂な声上げおって」
「びっくりした。突然出てくっから」
「元隠密機動総司令官がお主ごときに気配を悟られてはたまるまい。それより、こんな夜にここへ来るとは、腹でも壊したか」
 高らかに笑う夜一に脱力して一護はがっくりと項垂れた。
「んな訳ねーって。ただの通りすがり」
 ぴくりと夜一の頬が引きつる。あまりに下手な言い訳だったかと、一護は溜息を付いた。「ルキアなら二階の端の部屋だが、逢い引きにしては浪漫のない場所じゃの」
「どうしてそっちに話が行くんだよ」
「夜に男女が逢うのだから間違ってはいまい」
「俺が会いに行くのはおと…っとと」
 慌てて一護は口を塞いだ。不審げに夜一は眉を寄せ、一護に顔を近付ける。一護は誤魔化すように一つ咳払いをして、どうしたもんかと頭を抱えた。
「夜一さま。どうなさいました」
「お、砕蜂。待たせたか」
 闇の中から影がもう一つ現れ、夜一に声を掛けた。敵意を持った視線に、一護は圧力を受けたじろぐ。夜一は一護を睨み付けている砕蜂の肩をぽんと叩き、その腕を組むようにして取った。
「よ、夜一さま?」
「これからわしらはでえとじゃ。お主もせこせこ見に来るくらいなら、ちゃんと喰ってしっかり寝て身体直してからにした方が良いぞ」
 ではな、と手を上げあっという間に夜一と砕蜂は姿を消した。デートって女二人で、と思いもしたがあの砕蜂という死神の自分を睨む目は尋常じゃなかった。夜一に迷惑を掛けている者という意味での睨みならいいけど、もしかして嫉妬されちゃってたんだろうか。 そんなことを考えている場合じゃないと、一護は今度こそ誰にも邪魔されないように辺りを警戒しながら建物の入り口に向かった。
 小さくノックすると、中から物音がして扉が開かれる。不安げな表情の花太郎が顔を出し、一護を中へ招き入れた。
「ほんとは規則違反なんですけど」
「分かってる。すまねえな無理させて」
「いいですけど、何で明日じゃなくて今晩なんて無理言うんですか? ルキアさんと何かあったとか」
「ルキアは関係ない。ちょっと、な」
 大きく溜息を付く花太郎にそう言って、一護は中へ入っていった。本当は明日来るつもりだった。けれど、隊舎に戻ってからあの白い貌が目の裏にちらついて、苛々が臨界点まで溜まってしまったのだ。あのままではきっと眠れないと思い、隊舎を抜け出した。もう一度、一目見れば安心する、多分。
 昼間とは打ってかわり、建物の中は静まりかえっている。雰囲気の大分違う廊下を足音を立てず、一護は目指す部屋へ歩いていった。
 そっと扉を開き身体を中へ滑り込ませる。カーテンの無い窓から差し込む月明かりが、うっすらとベッドの上を照らし出していた。まるで陶器のような色合いの顔を息を詰めて見ていた一護は、意を決して側に近付いていく。
 上掛けで覆われている身体は見えなかったが、首周りにまだ包帯が巻かれている。霊圧も怪我の影響なのか、少し翳っていた。それでも、双極の丘で感じた今にも消えそうな弱々しさは無い。
 安堵の吐息を漏らし、一護は再び寝顔を見詰めた。
 横たわる姿は対決した時の鮮烈なイメージは無く、少し年上の普通の青年といった感じだ。普通の青年というか、今までにあった誰よりも綺麗なんだなと一護はしみじみ寝顔を眺めて思った。
 外見だけじゃなく、内面とか霊圧とか。闘っていた時はそんなものに気付く余裕は全く無かったし、起きている時にこんな風にじろじろ眺めたりは出来ないだろうけど。こうして側に居て、眠ってる姿を見てるなんて不思議だなと、一護は微かに笑みを浮かべた。
「何が可笑しい」
 一護は心臓が口から飛び出しそうになって、わたわたと両手を動かし一歩後ろに飛び退いた。そーっと窺うと、目は閉じられたままだ。今のは幻聴か寝言かと、冷や汗を流しながら一護はじりじりと後退り、後ろ手に扉を開いた。
「……えと、また来る」
 小声で囁くように言い、一護はするりと部屋の外に出た。起きたんじゃないよなと、どきどきしながら一護は元来た廊下を引き返す。もし起きていたとしたら、何か馬鹿みたいに見てて笑ったりして恥ずかしい。
 でも、あの性格なら一護がこっそり入っていった段階で、ばっさりいきそうなものだ。それすら出来ないほど霊力が損なわれているのかもしれないけど。
 首を捻り考えながら歩いていた一護は、後ろに立つ気配に気付くのが遅れた。振り返った一護の喉元に、白刃が突きつけられる。
「と、冬獅郎」
「日番谷隊長、だ。てめえこんな夜中に何でここに居る」
 厳しく問い質す冬獅郎に、一護はごくりと喉を上下させた。
「お見舞い」
 冬獅郎は眉を上げ、刀を鞘に戻した。大きく息を付き、一護は流れ落ちた汗を手の甲で拭った。
「見舞いは昼間にしろ」
「分かってるよ、ちょっと昼は出来なかったから、とゆーかお前病院で刀なんか抜くな。お前だって病人なんだろが」
 怒鳴る一護に舌打ちをすると、冬獅郎は手を伸ばしてその腕を取った。一瞬のうちに一護は昼間冬獅郎と出会った待合室に来ていた。
「くそ、まだ調子でないな」
 事態が理解出来ず、一護は辺りをきょろきょろと見回した。痛みを堪えるような表情の冬獅郎に気付き、一護は眉を顰めた。
「大丈夫か」
「あんな所で大声を上げるな。みんな寝ているんだぞ」
「わりぃ。冬獅郎は寝てなかったのか」
 日番谷隊長だと訂正するのも億劫になったのか、溜息を付くと冬獅郎はそこに座れと一護を促した。自分は一護の目前に立ち、少しだけ目線が下に向くようにする。
「そんな霊圧を垂れ流されて寝ていられるか」
 憮然として言う冬獅郎に、一護は首を傾げた。解ってない様子の一護に、もう一つ溜息を付くと冬獅郎は肩に両手を乗せ、目を覗き込んだ。
「お前はまだ自分の力を解っていない。制御も出来てない素人だ。尸魂界に来た理由は聞いたが、現世に戻ってもちゃんと修行をしないと、いらん諍いを生み出すぞ」
 真剣な冬獅郎の表情に、一護は目を二、三度瞬かせ、ついで僅かに噴き出した。そんな一護の態度に冬獅郎の頬がひくつく。
「ご、ごめん。だって子供のくせにすっげー大人っぽいこと言うから」
「言っておくが、見かけはどうあれ、貴様よりはずっと年上だ」
 そういえば、ルキアもそんなことを言っていたと思い出し、一護はもう一度冬獅郎に謝った。それにしても、死神の成長はどうなっているのか。そもそも魂魄に成長うんぬんってあるのかと、一護は不思議に思った。
「だから俺見られてんのか、もしかして」
 外見からいけば、死覇装を着けた一護は他の死神となんら変わりはない。自分では解らないが垂れ流しているという霊圧が普通の死神と違うから、みんな異質な目で見ているのかもしれない。
「こっちはそのうち慣れる。が、訓練はした方がいいぞ。ところで、見舞いってのは朽木隊長の所か?」
「なんで分かった」
 狼狽える一護を呆れたように冬獅郎は見た。あの階はほぼ隊長格専用となっている。一護に関わりのあってあの階に居るのは朽木白哉しかいない。
「何で昼間来ない」
「だから、行きそびれたんだよ。気になって明日まで待てなかったんだ」
 ほお、というように眉を上げる冬獅郎に、しまったと一護は歯噛みする。こんなあっさり白状するつもりはなかったが、流れで言ってしまった。
「俺たちの中では相当酷い状況だったようだが、命に別状はない」
 冬獅郎は腕を組み、重い溜息を付いた。一番危ない状態なのは、まだ目覚める気配もない雛森だが、あれは精神的なものもあるのかもしれないと卯ノ花は話していた。
「うん、それは聞いた。でも」
「顔を見ないと安心出来ないか」
 う、と詰まりながら一護は冬獅郎の言葉に肯く。今日中に顔を見たかったというのもあるが、一人で会いたかった。みんながいる前ではあの時感じたような動揺を見せてしまうかもしれないと思ったから。
 白哉は母親とは違う。死んでは居ないと頭では解っていても、見た瞬間震えが走った。それで居ても立ってもいられなくなった。もう一度しっかり確かめたいと、こんな夜中に出てきてしまったのだ。
「騒いで悪かったな。また明日来る」
 焦燥感は消え、照れくささだけが残り、一護は立ち上がった。途端にくらりと眩暈がして額を押さえる。
「黒崎?」
 何でもないと手を振り、一護は待合室を出た。じりじりと待っていた花太郎が再び入り口を開けてくれる。一護は礼を言って綜合救護詰所を後にした。
 再び塀に飛び上がり、隊舎に戻ってきた一護は薄明かりを背に仁王立ちしている雨竜を見て、低く呻いた。
「早いお帰りだな」
「う、うるせーよ」
 怯みながらも一護は雨竜の側を通り中へ入っていった。茶渡は一護の顔を見ると、ほっとしたように薄く笑む。心配させたかと一護は少しだけ反省した。
「こそこそと夜中にあんな所から出入りするのを見られたら、僕らだけでなく浮竹さんの立場も悪くなるって解らないのか」
「もうやんねーよ」
「身体は大丈夫か」
 茶渡の問いに頷き、悪かったと一護は小さな声で謝った。大きく溜息を付き、雨竜は眼鏡を取ると部屋に入っていく。茶渡は、それなら良いと言って部屋に向かった。一護は灯っていた灯りを吹き消すと、布団の上に寝転がる。
 白哉は寝たふりをしていたのだろうか。だとすれば、夜中に黙って見詰めていた一護をかなり不審に思っているかもしれない。
 暗いから救われるが、多分今一護の顔は赤くなっている。何で行っちゃったかなと軽く悔やみながらも、一護は安穏な眠りについた。

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