遮る物のない真夏の日差しが、朝だというのにじりじりとコートを焼き尽くすように降ってくる。その中で練習をしていたリョーマは、いくら拭ってもしたたり落ちる汗にうんざりした様子で息を付いた。 「ちょっとタンマ」 対峙していた桃城に待ってくれるよう言うと、リョーマはベンチに置いてあったタオルを手に取り、帽子も取って乱暴に顔と頭を拭いた。 「おーい、越前、今日はやけに待ったが多いな。もうへばったんか」 にやにやと笑いながら言う桃城に、リョーマは眉を顰めた。体力が落ちている訳ではない。連日の練習だって別に特に厳しくなった訳ではない。強いて言えば今までの夏はこんなに湿気の多い日本で過ごしていなかったので、それが気持ち悪いというくらいか。 それにしても今日は汗の量が多いと、リョーマは不審に思った。水分補給の為にドリンクを一口含み、コートに戻ろうとしたリョーマは、腹部に鋭い痛みを感じて足を止める。 「何…」 「どうしたの、越前くん」 動きを止め俯いて痛みに耐えていたリョーマに、不二が声を掛けた。顔を上げ、別に何でもないと言いかけたリョーマは、更に大きくなった痛みに膝を崩し地面に付いてしまった。 「どうしたっ、越前」 他の部員達もリョーマの異変に気付いたのか、駆け寄ってくる。不二は蹲るリョーマの背中に手を掛け、顔を覗き込んだ。 「凄い汗だ。お腹が痛むのかい?」 「別に、だ…いじょ…ぶ」 「大丈夫じゃないでしょ。我慢強いのは知ってるけど、顔も真っ青だし、直ぐに医務室へ行こう」 始めは嫌がるように首を振ったリョーマだったが、酷くなっていく痛みに意地を張る気力も無くなって、頷いた。 「おいおい、何なんだ」 「おチビ、痛そう」 「医務室へ」 集まる部員達の中で大石は彼らを掻き分け、リョーマに肩を貸そうと側にしゃがみ込んだ。が、一瞬早く不二が横抱きにリョーマを抱え上げ、歩き始める。 「不二先ぱ…」 「暴れないで…って言っても、今回はそんな余裕はないみたいだね。直ぐ医者に診て貰おう」 確かに恥ずかしいと言っている場合では無かった。痛みは益々激しくなる。リョーマは思わず不二の肩を強く掴んで痛みに耐え、歯を食いしばった。 「不二」 「医務室より救急車の方がいいかもしれない。大石、電話して」 「あ、ああ」 不二の苛立った言葉に、大石は頷き慌てて走り出した。続いて不二はリョーマをあまり揺らさないようしっかり抱いて歩いていく。その後をみんながぞろぞろと付いて行くと、コートを出る所で不二は足を止め顔だけ振り返って言った。 「後は僕が付き添うから、練習続けてて。着いたら連絡する」 自分たちも着いていくと文句を言いかけた菊丸たちだったが、不二の一睨みで竦み上がった。不二は再び歩き出し、校門へ向かう。暫くすると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。 「不二、越前の様子は?」 「見ての通り」 電話を掛け終えてやってきたらしい大石は、不二に問うとその腕の中のリョーマを見た。普段生意気で挑戦的な目は苦しげに震え、息は荒い。汗の流れる額に、大石は持っていたタオルをそっと当てた。 そうこうするうちに救急車が停まり、不二は当然のように中に乗り込む。大石は暫く躊躇ってから不二に財布だけを渡し、自分が乗り込むことは止めた。 「頼む」 頷く不二の顔は扉に遮られ、救急車は走り去った。 リョーマは酸素吸入器を付けられ、漸く少しだけ楽に息が出来るようになると、うっすら目を開いて周囲を見渡した。目の端に入る見知ったジャージを辿ると、真剣な不二の顔が飛び込んでくる。こんな顔、試合ですらあまり見たこと無いな、などとぼんやり思っていたリョーマは、手を強く握り締められ僅かに目を見開いた。 「リョーマくん、しっかり」 しっかりした方が良いのは不二の方なんでは、とリョーマはちょっと可笑しくなる。それほど狼狽えた焦った表情の不二に、リョーマは少しだけ痛みを忘れ微かに笑みを浮かべた。 はっと不二の表情が変わったのを見たリョーマは、そのまま意識を暗闇に沈めていった。 頭の上で低く聞こえる声に、リョーマは目を薄く開き、何度か瞬きをしてから完全に目を開けた。白い天井だけが見え、リョーマは首を傾けて周囲を確認しようとした。 「おう、目が覚めたか」 予想していなかった顔が目の前に現れて、リョーマは驚いて目を瞬かせた。意地の悪そうな笑みを浮かべた南次郎がリョーマを見下ろしている。 「…オヤジ……、何で」 「おめえ、盲腸だってよ。ダッサダサだな」 声に出して笑う南次郎の言葉に、リョーマは納得すると同時にげっそりとして目を閉じた。自分の息子が急病で倒れたというのに、何でそんなに嬉しそうなのだ。 「正確には急性虫垂炎ですよ。腹膜炎までいかなくて、手術も短時間で済んで良かった」 別の方向から不二の声が聞こえ、リョーマは目を開いてそちらの方を見た。いつものように静かに不二は笑みを浮かべ立っている。 「手術?」 「そう、コートで倒れた後病院に来て、直ぐに緊急手術したんだ。驚いたよ…本当に」 伏し目がちに静かに言う不二に、リョーマは顔が熱くなるのを感じて目を閉じた。痛みと苦しさに良く覚えていないが、しっかりしがみついてたり手を握って貰っていたりしたことが脳裏によぎる。 「リョーマくん? 熱出てきたのかな」 「けっ、そいつは恥ずかしがってんだよ。人前で倒れるなんて弱みを見せちまったからな」 「この…クソオヤジっ…いた…たっ」 南次郎の言葉に、リョーマは思わず起きあがろうと腹に力を入れ、身体を走った痛みに再びベッドに沈み込んだ。 「ああ、駄目だよ。今日はまだ暫く安静にしてないと」 上を向いて笑う南次郎に恨めしげな目を向け、リョーマは漸く引いてきた痛みに身体の力を抜いた。盲腸の手術の話は良く聞くが、本当にこんなに痛いものだとは思わなかった。 「んじゃ俺は煙草吸ってくるわ。まったく病院ってやつは辛気くさいは禁煙だわで、嫌になる」 「もう帰れ」 そんなに嫌なら来なければいいと、リョーマは南次郎が出ていった扉を睨み付けた。小さく笑う声が聞こえ、リョーマは不二の方に目を向ける。 「何?」 「いや、結構仲いいんだと思って」 「どこが」 憮然とするリョーマの額に手を当て、不二はゆっくり撫でた。微かに冷たい不二の手が気持ち良くて、リョーマはその手を取り、頬に押し当てる。 「良かった、もっと危険な病気じゃなくて」 「…ずっと付いててくれたんスか」 ふと、今何時だろうとリョーマは壁際に掛けられている時計を見た。時計の針は3時過ぎを差している。朝練で倒れてからそんなに時間が経っていたとは思わなかった。 「うん、まあ。君のお母さんが直ぐに来てくれたから居なくても良かったんだけど、心配だったから」 声が近づいて、不二の顔がリョーマの直ぐ側に寄せられた。思わず目を閉じるリョーマの唇に、ふわりと少しだけ冷たい不二の唇が触れる。 僅かの時間触れた唇が再び降りてこようとするのを、リョーマは手で阻止した。 「ちょっ…こんなとこで」 「お母さんは荷物を取りに家に戻ったよ。お父さんは暫く戻って来ないだろうし」 だからといってこの逃げられない状況で、そんな事はやばすぎるだろうと、リョーマは必死に手で押し返した。 不二は不満そうに眉を顰めると、リョーマの押し返そうとしている手に唇を押し当てた。掌や手首に唇を這わせる不二に、リョーマはくすぐったくてもう片方の手で退けようとする。が、不二は素早く手でそれを押さえた。 「駄目だよ。点滴が止まるから」 「だったら離して下さい」 「うん、ごめんね」 素直にリョーマから身を退き、不二は軽い溜息を付いて側に置いてあるパイプ椅子に座った。会話が途切れると部屋の中は静まりかえる。ここは個室のようで、ベッドは一台しかなかった。病院に見舞いに来たことも、ましてや入院経験などないリョーマには、珍しい物ばかりで動かせる範囲で首を動かし部屋の中を観察する。 「学校に戻らなくていいんスか」 一通り見回したリョーマは沈黙に耐えきれず、不二に尋ねた。今更戻っても授業には間に合わないだろうが、練習はある筈だ。 「大丈夫。1日2日休んだって」 「余裕だね」 「君が休んでる時に、先にいっちゃったら益々追いつけなくなるでしょう」 にっこり笑って言う不二に、リョーマは眉を顰めて睨み付けた。益々ってなんだよ、と心の中で文句を付ける。ところで何時まで入院してなくてはならないのだろう。1日でもラケットを振らないと気が済まないのに、ベッドに縛り付けられているのはムカツク、とリョーマは溜息を付いた。 「今時盲腸なんざ一週間もあれば退院できるが、俺様の完全看護とこの病院の完璧治療で4日くらいに縮められるぞ」 いきなり扉が開き、聞き覚えの驕慢な口調と態度の跡部が入ってきた。何故か白衣を着ている跡部に、リョーマは目を瞠り、不二は目を眇めて睨み付ける。 「その格好、コスプレなら当該イベントでしないと非常識だね。ああ、君は元から常識って言葉棚に上げているか」 「ふん、常識の上を行くのが俺のモットーだ」 不二の嫌みにも皮肉も鼻であしらい、跡部はベッドの側に歩み寄った。手を伸ばし、リョーマの顎を掴んで自分の方に向けさせる。 「顔色が悪いな。こいつになんかされたか?」 リョーマが反応する前に、不二が跡部の腕を掴み離した。火花を散らして睨み合う枕元の二人を、リョーマは唖然として見詰める。 「越前くんに触るな」 「ばーか、触んねえと具合がわかんねえだろ」 リョーマは二人の毒気に当てられ熱が出てきたのか、眩暈を覚えて目を閉じた。麻酔が効いているから動かないかぎり腹は痛くないが、頭痛がする。 「何やってんのやこんなとこで」 呆れたような関西弁が聞こえ、リョーマは目を開いて入り口の方を見た。氷帝の眼鏡こと忍足が眉根を寄せて跡部を見ている。彼の服装が普通の制服だったことに、リョーマはほっと息を吐いた。 「知り合いなら、これをここから連れ出してくれないかな」 凄みのある笑顔で不二は忍足に言う。指さされた跡部は鬱陶しそうに忍足を横目で見ると、片手を犬でも追い払うように振った。 「あんなあ、いくらここがお前の」 むっとして忍足は病室に入ると、跡部の前に立ち口端を引きつらせながら言いかけた。それをノックの音で止められ、振り返る。 「すみませーん、あ、居た居た。景吾さん勝手に白衣着ちゃ駄目ですよ。もう、いくらお医者さんごっこが好きだからって」 笑いながら言う看護士の言葉に、リョーマも不二も大きく目を見開いた。忍足は頭を抱え、重い吐息を吐いた。 「……ここ、普通の病院っスよね」 「多分、ね」 「仕方ねえな。俺を待ってる奴が他にも沢山いるからよ。また来るわ、じゃあな」 ぼそぼそと確認するように言い合う不二とリョーマにそう告げると、跡部は颯爽と白衣を翻し病室から出ていった。 「あー、その、まあ、お大事に」 魂が抜けたような表情で、忍足は言葉を濁しつつ去っていく。残された二人は暫く扉を見ていたが、やがてどちらともなく溜息を付いた。 「お前の…の後、なんて続けようとしたんだろう」 「さあ」 何であってもあまり確認したくない言葉だろう事は予想が付いた。頭痛は収まってきたが、酷く眠くてリョーマは目を閉じ、身体を伸ばす。 「そろそろ帰るね。お母さんも戻ってくる頃だろうし」 眠そうに目をしばたたかせるリョーマの肩を軽く叩き、不二は椅子から立ち上がった。つっと制服の端を引っ張られ、不二はリョーマの方を振り返る。 「あ、明日は来なくていい」 「ちゃんと明日も来るよ。おやすみ、リョーマくん」 言葉とは裏腹に縋るような瞳に、不二は微笑むとリョーマの手を一瞬握り締め、病室を出ていった。 一人になると途端に狭いはずの個室が広々として見える。病気すると精神が弱くなるんだろうかと、さっき見せた醜態に顔を赤く染め、リョーマは眠りに付いた。 次の日から点滴は外され流動食になり、自分で歩いてトイレにも行くようにと促される。起きて歩けばそれだけ身体の快復が早くなるのだと言われ、リョーマはまだ痛む腹を抱えながら用もないのに廊下をふらふらと歩いていた。 「あーっ、おチビ発見!」 「こら、英二走るな」 もう少しで自分の病室に着くという時、その部屋の扉から顔を覗かせた菊丸が嬉しそうに飛び出てくる。後ろから大石の怒る声が聞こえると同時に、リョーマは菊丸の腕の中に抱き込まれていた。 「大丈夫だった? 痛かった? 苦しかった?」 痛いのは腹よりも菊丸が強い力で締め付けている腕の方だと、リョーマは顔を蹙めた。 「英二、病人に懐かないの」 その言葉と共にリョーマは菊丸から解放され、大きく息を付いた。不二が菊丸の襟首をまるで猫のように掴み、遠ざけてくれている。 「うにゃ~、だってだって」 「大丈夫、越前くん」 微笑みかける不二に、リョーマは小さく頷いた。じたばたと暴れる菊丸を離し、リョーマの側に保護するように回り込むと、不二は少し身を屈めて耳元に囁いた。 「ごめん、一人で来るつもりだったんだけど、どうしても来たいって駄々捏ねるから」 「何言ってんだよ、不二は朝だって一人で来てたじゃん。ズルイにゃ」 朝も来ていたと聞いてリョーマは不二を見上げた。苦笑する不二に、そういえばとうっすら思い出す。朝方、眠りから目覚めかけていた時額に当てられた手や唇の感覚は、夢では無かったのか。 僅かに頬を染めるリョーマに、菊丸は頬を膨らませ、再びズルイと騒ぎ始めた。 「廊下で騒ぐな。ともかく病室に入れ」 焦って病室から出てきた大石が菊丸の腕を取り、引きずって中へ入れる。顔を見合わせていた不二とリョーマも中へ入った。 「リョーマくん、大丈夫?」 中には菊丸と大石の他にカチロー達1年生トリオも居た。さっきから大丈夫かと聞かれっぱなしでうんざりしていたリョーマは、軽く頷くとベッドに腰を下ろした。 「もう歩いても平気なのか」 「ねえねえ、もうオナラ出た?」 穏やかに常識人の大石が訊ねる横から、菊丸が好奇心丸出しでリョーマに顔を寄せ聞いた。鼻白んでリョーマは僅かに身を退くが、更に菊丸は身を乗り出して訊いてくる。 「こら、英二」 「だって大事な事なんだよ。うちのねーちゃん、暫く出なくて苦しんでたんだから」 「で、そんなことを訊いたらお姉さんはどうした?」 「ぶん殴られた」 後ろから問われた言葉に、うっかり答えた菊丸は、不二に頭を叩かれて涙目になって大石に抱きついた。 「いったーい」 「子供じゃないんだから、そんなことで大騒ぎしない。静かにしないと出ていってもらうよ」 笑顔で凄まれ、菊丸は漸く大人しくなった。大石は苦笑いを浮かべ、再びリョーマに向き直った。 「今日は俺たちが代表で来たんだけど、多分明日は桃たちが来ると思う」 「別に」 たいした病気ではないのだから、来なくてもいいのに、とリョーマは口の中でぼそぼそと呟いた。暇は潰せるかもしれないけど、またこんなに煩くされたら堪らない。 「リョーマ君でも病気になるんだね」 「豚も木に登る…だっけ」 「それを言うなら猿でも木から落ちる、じゃないの」 やっと先輩達のやりとりが終わったのを確認して、カツオは驚きを込めてリョーマに言った。それを受け堀尾が調子にのって間違った慣用句を言うと、すかさずカチローから突っ込まれた。 「どっちかというと、鬼の霍乱、だな」 苦笑して言う大石に、3人は顔を赤く染めた。言われたリョーマは憮然として、みんなを見渡した。その視線に気付いた不二が、菊丸の背中を突き促す。 「あ、そうそう、おチビにお見舞い持って来たんだよん」 手を打ち、菊丸は下に置いてあったバッグから何かを取り出し、リョーマに手渡した。それは立派な緑と黒のしましま模様が付いた大きな球体で… 「なんスか、これ」 「だから、お見舞い」 ずっしりと膝を圧迫するスイカに、リョーマは胡乱げな目を菊丸に向けた。確かに今は夏だけど、だからといって病院の見舞いにスイカってどうなんだ、とリョーマは暫し考え込む。 「ねえ、英二、確かメロンじゃなかった? お見舞いの品」 ちろりと大石にも不二は視線を投げかける。大石は慌てて両手を顔の前で振った。菊丸は不二の問いにあっさりと頷く。 「メロン高くってさ。これなら倍の大きさで安くて美味いよ」 「…ありがとう…ございます」 ちょっと迷惑そうにだが、きちんと礼を言うリョーマに、本気で言ってるのか、嬉しそうに笑いながら菊丸は胸を張った。呆れたように溜息を付き、不二はリョーマの膝からスイカを持ち上げ、菊丸に戻した。 「今はまだ流動食しか食べられないから、これ看護士さんに言って冷蔵庫に入れてもらってきて」 そうなの? と首を捻る菊丸に、そうだ、と頷き不二は扉の方を指で指し示した。がっかりしたように菊丸はスイカを持って部屋から出ていく。 「まあ、ゆっくり休んで身体を治せ」 「直ぐに出ます」 大石の言葉に、きっぱりと反駁してリョーマは顔を上げた。弱気の欠片もないリョーマの瞳に、大石は破顔して大きく頷いた。 「今はお腹切っても直ぐに立ち上がったり、歩いたりさせるみたいだね。その方が傷の治りが早いんだって。だから、運動しないと」 ね、と不二はリョーマに確認するように言った。その言葉の裏側にある含みに気付き、リョーマは頷きながらも片眉を上げて不二を見据える。 「その通りだ。よって、俺様と楽しい運動をしようぜ」 病室の空気が一瞬にして凍り、ついで沸騰した。扉口に現れた跡部の姿を見て、大石や1年トリオは唖然とする。 「どういう運動なんだろうね」 「下品な想像はするな。俺と越前のめくるめく愛の交歓さ」 喉の奥で嗤いながら指先を振る跡部に、不二の眉が僅かに上がった。いつもは穏やかに伏せられている不二の目が開かれ、射抜くように跡部を睨み据える。 「寝言は寝てる時に言うものだよ」 「ああん? てめーこそ、いつも起きてんのかわんんねーんだよ、その目」 言葉は丁寧だが、その一言一言に冷たい棘があるのを感じ、やりあっている二人以外は身が縮む思いで動けずにいた。 「はいはい、そこまで。ほんまにお騒がせなやっちゃな」 こういう時には関西弁の柔らかさは救いである。扉から顔を覗かせ、忍足は手を叩くと跡部の横に立った。 「こういうのはちゃんと繋いでおいてくれないか。昨日に引き続き、君たちも随分と暇なんだね」 「暇ゆう訳やなくて、なりゆき」 肩を竦めると忍足は跡部の腕を掴み、外に出そうとした。だが、跡部は動こうとしない。いい加減、不二が切れるんじゃないかと、顔には出さず茫然と見ていたリョーマは、再び何かが扉口に動くのを見て顔をそちらに向けた。 |