weird science-4-

 「無事に着いたようね。良かったわ」
 モニターの向こうの入間に我夢は苦笑を浮かべた。丸一日寝ていた藤宮は、その次の日から我夢とともにシステムの調整に入ったのだが、新クリシスの所に居る他のメンバーは死屍累々といった感じで疲労困憊のあまり仕事に就けそうもないと連絡があったのだ。
「凄かったのよ、鬼神ってあんな感じかもしれないわ。とにかく後はそちらに任せるから…高山くん頑張ってね」
「はあ…はい」
 何を頑張れと言うのだろう。我夢は通信を切ると振り返った。ダニエルと藤宮が何か話し合っている。二人は以前クリシスの開発の時も一緒に居たから、今回もやりやすいのだろう。
 話し終えて手招きをして呼ぶダニエルに、我夢は首を傾げて近付いていった。
「はいこれ、今晩から使えるようにしておいたから」
 手渡されたのはIDカードキーのようだが、見覚えはない。
「何これ?」
「海岸の近くにあるラボの鍵。ここから車で15分てとこかな。まあ、今居るアパートよりは遠いけど二人で住むには充分過ぎるくらい広いからいいよな」
 明るく言われ我夢は、は?と聞き返した。
「古い物だけど、海洋研究の設備は充分整ってるし、元チームマーリンにも協力してもらえるよう、今ガードに要請している。セイレーンは無事だったからね」
「海洋研究って…藤宮の?」
「そう。宇宙に目を向けるのも大事だけど、地球には僕らの知らない事がまだまだ沢山ある。宇宙の声と地球の声、両方大事だ。それを気付かせてくれたのは君たちだ」
 ダニエルはにっこり笑うと我夢の肩をぽんと叩いた。
「結婚のお祝いに、ラボと好きな研究のダブルプレゼント。君たちにはそれを受け取る権利がある。これからも地球と人類のために、がんばってくれ」 「け、け、結婚って〜誰が!」
「ジョークだよ。でも、同棲…じゃない、同居にはなるだろ」
 ぱちんとウインクしてダニエルは唖然とする我夢を残し、歩き去った。
 我夢は暫く呆然としていたが、やがて恐る恐る藤宮の方へ近付いていった。
「藤宮…ダニエルが、これ…」
「ああ、さっき聞いた。家財道具一式もう揃ってるそうだから、取りあえず身一つで行けるらしい。元のアパートにあった荷物も明日には業者が届けてくれるそうだ」
 にやりと笑って言うところを見ると、今回のことは藤宮が画策したに違いない。古いラボの一つや二つ脅し取るのは造作もないだろう。
「今日の分は終わった。帰るぞ」
 我夢が眉間を顰めて考えていると、藤宮はモニタのスイッチを切り踵を返す。慌てて後に続いた我夢は藤宮にバイクの後ろを示されてヘルメットを被り跨った。
 宇宙工学研究所から確かに十数分すると海岸沿いに出る。日本の海とは違う色合いの海辺に、僅かに灰色味を帯びた小さな建物が建っていた。その向かい側は天然の入り江になっていてクルーザーが停泊している。
 ラボの前にバイクを止め、中に入ると我夢は感心したように周りを見回した。確かに古いが作りはしっかりしている。以前も海洋研究の拠点となっていたのか、それらの資料が豊富にあるようで、壁には美しい夕闇の海とシルエットのイルカを撮した写真が掛けられていた。
 研究室の奥に最新のコンピュータネットワークシステムが組まれてあり、それは宇宙工学研究所と新クリシスとも繋がっているようだ。もしかすると、ここに居ながらにして調整や開発はできるかもしれない。
 我夢は嘆息しながら続いて奥の扉を開いた。そちらは居住空間となっているらしく、3LDKのマンションくらいの広さはあるようだ。海に面したリビングには誰の趣味なのか、淡いブルーの色調で纏められた家具が品良く配置されてあり、外からの陽光を浴びて迎えている。
「すっげえ〜良いとこだあー」
「三つ部屋があるから、一つずつ自分の部屋として使える。バスルームからは直接海へ出られるようになってるから、海から戻ってきてシャワーを浴びるのも簡単だ」
「ほんと?それも凄いな。…あれ部屋三つってことは、もう一つは?」
「後で見せる。それより先に風呂に入れ、飯は炊いておく」
 バスルームへ追いやられた我夢は、再び感動して中を見た。今までマンションでもアパートでも日本式の狭いユニットしか入れなかったのに、ここのバスルームは広くて大きい。それこそ大人二人でも悠々入れるんじゃないか。とそんな事を考え、藤宮と二人で入るなんてことまで考えてしまった我夢は、真っ赤になってその想像を振り払うと服を脱いでシャワーを浴び始めた。
 バスローブに着替えて出てきた我夢は、懐かしい香りに鼻をひくひくさせてキッチンに向かった。見覚えのある電気炊飯器が湯気を上げている。
「俺が入ってる間に、作っといてくれ」
 入れ替わりに藤宮はキッチンを出ていく。作れって何があるんだ?と冷蔵庫を開けるとそこには、缶ビールしか入っていなかった。いや、よく見ると奥の方に赤い塊が入った小瓶がある。それは梅干しの瓶詰めだった。
  炊き立てのご飯と梅干しで作れる料理って…と考え込んだ我夢は、あれしかないと手を洗い、塩を自分の手に振っておにぎりを作り始めた。
 こんなので本当にいいのか?と思いつつ四つ作った我夢は手を洗い、テーブルの上に置く。そこへズボンだけ履いた藤宮が髪を拭きながら姿を現し、にっこり笑うと一つ掴んで口に運んだ。
「………」
「あの、何でご飯だけなんだ?ここなら魚とか売ってると思うけど」
「これが喰いたかったんだ」
 あっという間に一つ平らげ、もう一つ食べ始めた藤宮は、我夢の問いに笑って応えた。指に付いたご飯粒も舐めるように取って食べる藤宮の唇の動きに目を奪われ、我夢は淡く頬を染めて目を反らす。まだ食べたりなさそうな藤宮に、全部食べていいよと言うと我夢は着替えようと部屋へ向かった。
「あれ…?」
 さっきまで着ていた服が見あたらない。まだアパートから荷物は届いていないからあれを着るしかないのに。
 我夢は他の部屋も探してみようと次の扉を開いた。途端に動きが止まってしまう。他二つの部屋は机や作りつけのクローゼット以外の物は置いてなかったのに、この部屋にはどどーんとダブルベッドが置かれている。
「我夢」
「わっ」
 入り口で固まっていた我夢は、後ろから声を掛けられてびくっと飛び上がった。背中を押されてその部屋へ入った我夢は抱き締められて身体を強ばらせる。
「初めからこうすれば良かった。離れてても、触れ合えなくても確かに心は通じている。けれど顔を見たい、抱き締めたい…愛したいと思うのも自然の摂理だろう。心だけじゃ俺は満たされなかった…」
「…僕も…君と一緒に居たかった…でも、そう思ってるのは僕の方だけだって。僕の一方的な我が儘だと思ってた」
 藤宮は我夢の顔を上げさせ、口付けた。強く抱き締められ優しく口付けられて我夢は自分もぎゅっと抱きつく。暖かい人肌に泣きそうなくらい心が解れて、我夢はうっとりと藤宮の肩に顔を埋めた。ふわりと身体が持ち上がり、ついでベッドに落とされる。びっくりして開いた我夢の目に、真剣な熱い藤宮の瞳が映った。
 藤宮は再び口付け、柔らかくぽってりしている我夢の唇を割ると口腔に舌を忍ばせる。びくりと瞬きをし、我夢は慌てて目を閉じた。
 藤宮の舌は縦横に動き回り、歯の裏側をくすぐると縮こまっている我夢の舌を絡め取る。徐々に応える我夢と藤宮の舌が濡れた音を立てて絡み合った。
 藤宮は何度か口付けを繰り返した後、我夢の耳を舌先で嬲り首筋から鎖骨へと滑らせていく。バスローブを肩から落とし胸を露わにすると、藤宮は指先で突起を摘んだ。
「あ…っ」
 ちくりとする痛みとともに、じんと甘い疼きが藤宮の指先から全身に響いた。転がすように乳首を愛撫し、堅く尖ったそれを藤宮は口に含んだ。舌で舐め上げ軽く歯で噛むと、我夢の胸は戦き震える。もう一方を弄っていた指を滑らせ、藤宮はバスローブのひもを解くと既に下着を押し上げている我夢自身をやんわりと握り締めた。
「…ぅ…っ…あ…」
 下着を降ろし、直に掌で包み込むと、ゆっくり上下に扱いていく。胸は更に荒く動き、藤宮は必死に堪えている我夢の息を心地よく聞いていた。
「ふ…じみ…や…、やだ…」
「…何が嫌なんだ」
 我夢の両手が胸でしつこく愛撫を繰り返す藤宮の頭をくしゃりと掴み、濡れた声で非難する。さっきから痛いほど乳首に愛撫を与えるくせに、下腹部への愛撫は直接的な強い刺激を与えないのだ。
 ふっと笑って意地悪く訊く藤宮を、潤んだ目で睨み付けると、我夢は突然彼の身体を押し戻し反転して自分が上に乗り上げた。
 驚いて見ている藤宮のズボンのジッパーを降ろし、我夢は自身を引き出した。前に二度藤宮とは抱き合っていた。まだ破滅招来体と戦っている時で、お互い切羽詰まっていて…何しろ、明日死んでしまうかもしれなかったのだ…夢中だったからよく覚えてないが、どうしたらいいかは知っている。
 だが、目前にそれを見て、我夢はちょっと躊躇った。やられたことはあるが、やったことは無いのだ。意地悪返しのつもりでやってやろうと思ったけど、できるだろうか。
「我夢?」
 藤宮が起きあがろうとするのを見て、我夢は決心してそれを口に含んだ。いきなり奥まで含んでしまい、咳がこみ上げる。うう、と呻いて涙目になる我夢の頭を引き剥がそうとした藤宮は、嫌だと頭を振るのに軽く溜息を付いてそのまま半身を起こし見ていた。
 なんとか込み上げるものを押さえ、我夢は口を上下させて藤宮自身を扱いていく。我夢が舌を使い、先端を舐めると、藤宮は顔を顰めて手を伸ばし頭に添えるように触れた。
 我夢の唾液と藤宮の先走りの液で滑りやすくなったのか、上下に扱く動きも滑らかになっていく。藤宮は感じる部分に我夢の舌が当たる度に、頭に埋めた手に力を込めた。それを頼りに我夢は藤宮の快感を高めようと舌を遣い更に激しく唇を上下する。
 どんどん大きくなるそれに、口が疲れて小休止しようと離した我夢は、いきなり腰を持ち上げられ、反対向きにされて驚いて後ろを振り返った。
「…藤宮…?…わっ」
 丁度藤宮の顔を跨ぐような自分の格好に気付いて、我夢は顔を赤く染めた。身を引こうとした我夢の腰を両手で固定すると、藤宮は半分勃ちあがったままの我夢自身に舌を這わせた。
「あっ…ぁ…」
 びくりと痙攣し、我夢は甘い声を上げる。愛撫を受けた自身はすぐに弾けそうなくらい張り詰めてしまう。我夢は声を漏らさぬよう唇を噛み締めると、再び目の前にそそり立つ藤宮自身を口中に含んだ。
 だが、藤宮の舌が自身から後ろへと伸ばされ、受け入れる部分を愛撫し始めると、我夢は口を離しシーツを握り締めてその感覚を堪えた。
 唾液と共に舌が解すようその部分を丁寧に舐め上げていく。長い指が入り込み中で蠢き始めると、我夢は肘をがくりと付き、シーツに顔を突っ伏した。
「……んっ…ぅ…ぁ…っ…」
 藤宮は身を起こし、我夢の身体を返すと、両足を抱え上げてゆっくりと自身を挿入していった。歯を食いしばり痛みを堪える我夢を宥めるように前へ愛撫を続け、藤宮は全てを納めるとゆっくり動き始める。
「我夢…力を抜け…」
 熱く痛いほど締め付ける我夢の内部に、藤宮の自制心も崩壊寸前である。それでもなんとか、傷つけないよう藤宮はゆっくり動き始めた。
 だが、うっすらと潤んだ瞳を向け、両手を伸ばし抱きついてきた我夢にぷつりと自制心の糸が切れ、藤宮は強く抱き締めると激しく腰を突き上げていった。
「ふ…っ…じ……あっ…あぁ…」
「…く…っ」
 我夢が嬌声を上げて達した時、藤宮もその最奥へ自身を放った。
 荒く息を付く我夢の、涙の滲んだ目元に軽く口付け、藤宮は再び全身に手を這わせていく。達したばかりで感じやすくなっている我夢は、手が触れる度にぴくぴくと反応を返していたが、藤宮の手が再び自身に伸びるとぼんやり目を開いた。
「……ふじみや…?」
「まだ…全然足りない」
 にっこり笑って言う藤宮に、我夢の顔が青ざめる。待て…と言いかけた唇を塞がれ吸われると、我夢は、まあいいかと応えていった。

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