海を見ていた午後−3−
それからの日常は再び元のように戻ったかに見えた。炎の方はあれ以来吹っ切れたのか、普段と同じように海にも接している。海の方は接し方がぎこちなく、今まで以上に炎に厳しく当たるようになっていた。
「最近厳しーねえ、カイの奴。まあこつちにお鉢が回ってこなくてラッキーだけど、大変だな、お前」 超常現象研究部の部室で雑誌を見ながら、森はぼんやりと窓の外を見ていた炎に言った。炎は森に見えないところで微かに顔を蹙めると、笑顔を作って振り返る。 「相当嫌われてんのかもな。ま、忘れられるよりはいいけど」 「忘れられる?何をだ」 不思議そうに訊く森に応えず、炎は再び窓の外に目を向ける。そう、忘れられるよりは嫌われていても覚えていてもらえる方がいい。良いのだが、やはり厳しい言葉を投げつけられるのは辛い。告白したことを後悔はしていないけれど、ちょっとばかりめげてきていた炎は、なるべく海と顔を合わせないようにしていた。 「げ…来た。俺、逃げるから」 窓の外に白い制服姿を見て炎はそう言うと、裏口から外へ出ていく。森はそれを見送り、入ってきた海が探るように室内を見回す視線を黙って見ていた。 「エンは居ないのか」 「逃げたよ、裏からな。最近お前さんずいぶんあいつに厳しいけど…なんか気に入らないことでもあった訳?いちいち突っかかっていくなんて、らしくないんじゃない」 逃げたと聞いてビリビリした空気を纏った海に、森は訊ねる。だが、海は不愉快そうに眉を潜め否定した。 「別に、気に入らない訳ではない。ただ……自分でも解らないのだが、エンを見ていると苛つくのだ。胸に何かが詰まったようになって、つい声を荒げてしまう」 最後の方は戸惑うように言う海に、森は目を見張ってしまった。 「おいおい、そりゃあ…」 言おうとして森は口を閉じる。自分の言葉で気付かせていいものだろうか。下手をするともっと泥沼になるかもしれない。森はそう考えると溜息を付いて裏口を指さす。 「そっから出ていったから、森の中へ入ってったんじゃないの。……そういうのに鈍感なのがお前さんの売りだとは患うけど、後から気付いても遅いってことにならない内に、追っかけた方がいいと思うぜ」 謎めいた森の言葉に眉を潜めつつ、それでも海は裏口へ足を向けた。 森の奥へ足を踏み入れた炎は、息を切らせるほど足早に歩き大きな木の根本に腰を下ろした。何で海から逃げ回るような真似をしなくちゃならないんだと思いつつ溜息を付く。 「また逃げているのか」 「うるせーよ」 いつものようにいきなり現れた竜に炎はむっすりと言う。竜は炎の隣にしゃがみ込み、顔を近付け ていった。 「俺に、乗り換えるか」 「へ…?」 呟かれた言葉の意味が汲み取れず、炎は首を捻って竜を見つめた。微笑む竜の目は何かを含んで炎の目を見つめている。 「何をしている!」 「カイ!」 以前と同じような場面で出てきた海に、驚いて炎は立ち上がった。竜はゆっくりと立ち上がると炎の肩に手を掛け、海に向かって言った。 「エンはお前から俺に乗り換えるそうだ。安心していいぞ」 「え…えっ!」 にやりと笑って言う竜に、びっくりして炎は目を向ける。海もまた驚いて竜を見つめ、手にした竹刀を強く握りしめた。 「それは…許さない!」 ぎりっと唇を噛み締め、海は考える間もなくそう叫んでいた。胸に走る焦りと憤りに突き動かされるように、海は二人に近付き竜の腕から炎を引き杜して自分の方に引き寄せる。 「許さない……私は…」 「カイ?」 苦しげに顔を歪ませる海に、炎は大丈夫かと声を掛けた。強く掴まれた腕が痛み、炎はそれを外そうとした。 だが、腕は外れず、いきなり抱きしめられてしまう。炎は驚いて目を見開いた。 「……好きだ…」 告げられた言葉が一瞬理解できず、炎は呆然としてしまった。なおも強く抱きしめてくる海の背中にそろそろと手を回してしがみつく。 「…これが…好き、という気持ちなのだと、今漸く解った…。胸が痛むのも、無くなるのも、好きだという感情の現れなのか、私は無知ゆえに解らなかった」 「カイ……」 「好きだ、エン。今更だとは思うが…もし今でも私のことを好いていてくれるなら…」 「振られたって直ぐに気持ちが変わる訳ねーだろ」 海の言葉を封じるように炎は叫ぶ。海は身体を僅かに離し、赤くなっている炎を見つめた。途端に、今まで解らなかった愛おしさが溢れ出てくる。これが人を好きになることなのかと、海は溢れてくる感情の渦に心地よく身を任せ口付けた。 「ふっ、今日のところは引き下がるか」 「リュウ」 呟くようにそう言って竜はくるりと身を翻し去っていく。竜の言葉が本気だったのか、それとも、海に自覚させるためにしたことだったのか、炎には判らなかった。 「リュウには渡さない」 「何言ってんだよ」 「お前は私のものだ」 強く言って再び口付けてくる海を、炎は戸惑いつつも微笑んで受け入れた。 炎の突然の告白に困惑しながらも、海は嫌だとは不思議に思わなかった。普通なら男に告白などされれば、いくら相手が真摯な気持ちであろうと嫌悪感を持たないことはないだろうに。 炎の方は吹っ切れたのかすっきりとした感じでいつも通りに自分に接してくる。遅刻こそ少なくなったが、海を避けていた一時より元に戻ってきたようだ。海もいつも通りに炎に接しているつもりだった。けれど、どこかぎこちない。 ふとした瞬間炎の顔を見る度に、海は胸の動悸が不規則になることが多くなった。笑顔を向けられるとそれは高鳴り、その笑顔が他の者に向けられるとちくりとした痛みを胸に感じる。 目を離せないのは、いつまた問題を引き起こすか判らないからだ、と理屈を付けてみても不自然なほど炎を見つめている自分に気付いて、海は狼狽えた。 それを振り払うように炎に厳しく当たり、必要以上に怒り注意をしてしまう。声を荒げている自分をもう一人の自分が笑いを含んで見ているような気がしてならない。 そんな自分に愛想を尽かしたのか、このごろ炎は海を避けるようになってきていた。元々学年も違うし、大人しくしていれば会うことなど滅多に無い。事件でもあればダグベースか真理亜の部室で集まって話し合ったりもするのだが、あれ以来平穏な毎日が続いている。 用が無いときでも炎や森などは真理亜の部室にたむろしていることが多いのだが、海には風紀委員長としての責務があり、そうそう場を外して行く訳には行かなかった。 久しぶりに委員会も無く、校内で問題も起こっていないため海は真理亜の部室へ足を向けた。今日も朝から炎の姿を見ていない。部室に行けば炎が居るかもしれないと思うと、僅かに心が弾んでくるような気がする。 窓にちらりと赤い物が動いたのを見かけて、海は微かに口元を綻ばせ部室の扉を開けた。 「エンは…居ないのか…」 部室の中には暇そうに雑誌を見ている森しか居ない。確かにさっき赤い上着を見たと思ったのに見聞違いだったのか。 「逃げたよ、窓からな」 森の言葉に海は眉を潜めた。逃げた…というのは自分から逃げたというのだろうか、炎が。 後に続けて言われた森の言葉に、当惑しながらも海は何かに突き動かされるように裏から炎の後を追って出た。 暫く行くと、赤い上着と紫のシャツが垣間見えてくる。炎の有に手を掛けている竜の姿を見て、海は心臓がぎゅっと鷲掴みにされるような感覚を覚えた。 微笑みながら何かを囁く竜を炎はじっと見つめている。互いしか目に映らないような気配に、海は思わず声を荒げていた。 「何をしている!」 「カイ!」 驚いて見つめる炎の瞳が自分を映し出すと、海の胸が熱くなる。だが、直ぐそこまで答えが出かかっているのに、頑強な防波堤は荒れ狂う波を未だ押しとどめていた。 「エンは俺に乗り換えるそうだ」 「リュウっ?」 驚いて目を見張り、炎が自分から視線を外して竜を見たとき、海の中の波は堰を破った。 「許さない、私は……」 炎が好きだ、とこの時漸くはっきりと海は自覚した。自覚してしまうと、自分がどれほど切に炎を求めているかも分かってしまう。海は炎を竜の腕から引き剥がすと抱きしめた。 「好きだ…」 今更遅かったかもしれない、という不安が黒い妻のように心を覆う。けれど、炎がすぐさま応えてくれたことで、海の心は僅かな危惧を含みながらも晴れ晴れとしていった。 抱きしめて、口付けて…炎を愛おしいと思う感情のまま、行動する。海はこれほどの想いを他人に抱いたことが今まで無かった。 冷静で沈着、などという肩書きなどくそ食らえと蹴飛ばして溢れる熱い感情に身を任せる。強く抱きしめてくる海に、炎も腕を回して応え、二度目の口付けを迎えた。 学生というものは、時間がたっぷり有るようでもどうしてこんなに自由になる時間が無いのだ、と海は生徒指導室で綱書の確認を取りながら不機嫌そうにそれを纏めて係りの者に渡した。 炎が好きと自覚し、両想いとなっても男同士の恋人ではおおっぴらに校内でくっついている訳には行かない。ましてや、風紀を守るべき者が自ら乱してどうする、と厳しく自分を律して居るのでこっそりとでも炎に会うことが出来なかった。 これで普段のように炎が遅刻早退等同額児で居てくれれば、少しは指導と称して会うことも出来るのに。 「巡回に行って来る」 「最近、広瀬委員長のお力か、問題が少なくなりましたから、少し休まれたらいかがですか」 竹刀を手に立ち上がった海に、委員の一人がそう声を掛けた。だが、海はじろりとその委員を見て厳しく言い放った。 「そうして手を弛めれば、また問題が起きるのだ。何も無い時こそ厳しくしなければならない」 「すみません、出過ぎたことを言いました」 「いや…私への心配はありがたいが、今日はこれで解散としよう。一回りしたら私も帰宅する」 「はい」 尊敬の眼差しを背中に受けつつ、海は部屋を出た。 途中帰宅しようとしている森と翼に出会い、炎は真理亜の部室に居ると告げられる。海は一瞬躊躇したが、巡回を途中で中止すると部室へと向かった。 「こら、止めろってんだよ、ゲキ」 「そんな冷たいことを言うな、エン」 中から炎と激のやりとりが聞こえ、海は眉を吊り上げる。荒っぼく扉を開くと、激が炎の両肩を抱いてテーブルの上に押しっけていた。 「貴様っ、何をしているっ!」 それを見た海の額に青筋が浮かび、竹刀を激の鼻先に突きつけた。 「うわっ」 手を離した激は後ろへひっくり返り、驚いた顔で海を見た。 「何をしていた」 「え?いや、その〜、マリアさんへのら、ラブレターを…」 もごもごと赤くなりながら口ごもる激に、ぴくぴくと眉を痙攣させながら海は再び竹刀で扉の方を指し示した。 「それくらい自分で渡せ!今日はマリアは2丁目の幽霊屋敷探索に行っている」 「何じゃと、本当か?それじゃいくら待ってもここには来ないのか」 しゅんとしている激を外へ追い出し、内側から鍵を掛けた海は、呆然と立っていた炎に改めて対峙した。 「エン」 「巡回中じゃないのか?委員長が職務放棄したらフアンの子が泣くぞ」 ふっと笑って言う炎に足音も荒く近付くと、強い力で抱きしめる。身体に感じる炎の鼓動と体温は海の身体に直に伝わり、熱を高めていった。 「会いたかったのだ」 「カイ」 責務や常識や世間体など、炎を抱きしめた瞬間どうでもよくなった。自分は炎が欲しい。何時だって側に居て、抱きしめて、キスして触れていたい。海は自分の中にこんな情熱的な感情部分があったのかと驚いていた。 「俺も会いたかった。けど宇宙人も来ないしさ〜どうしようかって思ってた」 へへ、と笑って言う炎に海は口付ける。 「…いいのかよ、校内での不純な行為は絶対許さん!じゃなかったのか」 何度も口付けてくる海に、炎は顔を赤く染めながら言った。 「知ったことか」 にやりと笑って言う海に、炎は驚きの目を向けた。こんな感じの海を見るのは初めてで、なんだか別人のような気がする。 「か、カイ…」 海は再び炎の唇を塞ぎ、閉ざされているそれをこじ開けて舌を差し入れていった。びっくりして目を見開いている炎の口中をくまなく舌先で辿る。 硬直している炎の舌に自分の舌で触れると、それはびくりと痙攣して奥へと逃げ込んだ。逃げる炎の舌を追い、捕らえて吸い上げる。 「…ふ……っ…」 貪るような口付けに耐えきれなくなった炎は、手で海の顔を押しやり、漸く息を取り戻した。濡れ て赤くなった炎の唇を見つめていた海は、そのままテーブルの上にゆっくりと身体を倒していく。 「エンが、欲しい」 「えっ…?」 大きく息を付いていた炎は、熱く濡れたような声で囁く海を驚いて見つめた。確かにお互い好きあっている訳だけれど、まさかそんな方面にまで海が行くとは思わなかった。 炎とて一般的な男子高校生、その手の話題だって自慰だって普通程度にはやっている。けれど、男同士でおまけに相手は堅物の上に超が付くほどの海だ。 「俺が、欲しいって…どういう意味だよ」 もしかして、自分はとんでもない変な勘違いをしていて、海は別の意味で言ったんじゃないかと、炎は冷や汗を浮かべながら上にのし掛かってきている彼を見つめた。 「お前を抱きたい」 そう言って海は炎の唇に軽くキスした。重ねられた身体が熱く、丁度テーブルからはみ出して出ている両足の間に海の身体が入り込み、その部分が衣服越しに触れ合っている。 熱く脈打つ海のそれを感じ取り、炎は顔を真っ赤にして背けた。 「口付けて、触れて、一つになりたい」 「そ、そんなこと、出来るわけねーだろっ」 海の口からそんな言葉が出てくるのを聞くのが恥ずかしくて、炎は思わず怒鳴ってしまう。 「何故だ?まさか、リュウともう…」 「このっ大馬鹿っ!俺が好きなのはお前だっ、何でリュウとやんなきゃなんねーんだよ」 「リュウには渡さない」 「違うってんだろっ!タコっ」 背けていた顔を戻して怒鳴りつけた炎は、海の剣呑な瞳にごくりと唾を飲み込んだ。 「ならば何故、私を拒むのだ」 「俺は男で、カイも綺麗だけど男だし。女みたいに出来る訳ないし…それに、カイがそんなことするなんて想像も付かないぜ」 目を伏せ、炎はぼそぼそと応える。海が何をどうやるつもりなのかは知らないが、自分だってキスしたいし触れていたい、が、それまではともかく、先のことは考えられない。確かに並の女の子以上に海は綺麗だけど…だから汚したくない、などと思いついた炎は、自分の考えの恥ずかしさに顔を赤く染めながらもごもごと口ごもった。 海は赤く染まった炎の顔を唖然として見ていたが、頭痛に眉根を寄せると溜息を付いて身体を離す。諦めたのかとほっとして力を抜く炎の上着を素早く剥ぎ取り、海はズボンのボタンを外してジッパーも引き下ろしてしまった。 電光石火の出来事に、炎は硬直したまま海を見た。その間に、さらに海はズボンを下着ごと引き下ろしてしまう。 「なっ、何すんだよっ!」 「想像が付かないというなら、実践で見せるしかあるまい。私はごく普通の男だ。好きだと思う者が居れば身体が反応するし、抱きたいと思う。高校生にあるまじき不純なことだと言う建前は、この際どうでもいい。私は今エンが欲しいんだ」 「カ…イ……」 海は笑みを浮かべたまま唇を炎の首筋に埋め、鎖骨に歯を立てた。片手をシャツの裾から中へ入れ、胸を撫でさする。もう一方の手は脇腹を掠めて下腹部へ移り、炎自身をそっと握りしめた。 びくりと背を浮かし、呆然としていた炎は漸く逃れようと身を振る。だが、握りしめられた部分に愛撫を加えられると、熱い疼きが下半身から全身を浸し、炎は海にしがみついた。 「あ……」 シャツを首の方までめくり上げた海は、現れた突起に舌先を這わせ転がすように愛撫していく。指の腹でもう片方も潰すように転がされると、炎は微かな声を上げた。 自分の上げた濡れているような甘い声に驚いて、炎は唇を噛み締める。海は突起をしつこく弄ぶりながら、熱く勃ちあがってきた炎自身へも強弱を付けて愛撫していった。 「…く……っ…」 やっと胸から海の唇が離れていくことにほっとしたのもつかの間、次に来た下半身への甘い波に炎は呑まれてしまう。 海の唇は炎自身を包み込み、熱く滑る舌先でそれを舐め上げた。 「…ああっ……やめろ…よ…カ…イ…汚ね…え」 股間にある海の頭を押しのけようと炎は両手で髪を掴む。だが、力の入らない腕は、ただ海の頭に添えられているだけだ。 「…は…あ…っ……」 炎は背を大きく仰け反らせ果てた。口中に広がる炎の放った体液を咳き込みながらも飲み込んだ海は、そのまま両足を抱え上げて奥に秘められた部分へ、濡らした指先を潜り込ませる。 びくっと反応したものの、まだ余韻にひくついている炎の秘処は多少抵抗があったものの、海の指を飲み込んだ。 「ああ…痛っ…く…うぅ…」 眉を寄せて異物感に呻く炎の内部から指を引き抜くと、海は炎の熱い吐息に、触れてもいないのに熱く限界まで滾っている己自身を挿入していった。 「うああっー…!あっ…痛ぇ…っよっ…やだ…」 「エン…力を抜け…」 「んなの…でき…っか…よ……」 痛みに力を込める炎を宥めるよう海は手を間に入れて愛撫を加えた。それによって僅かに力を抜いた炎に、海は強く自身を打ち込んでいく。強く抱きしめてくる海を、炎は痛みに気が遠くなりかけながらも同じように抱きしめていた。 ぐったりと身体を伸ばしている炎の手当と身支度を済ませ、海はそっと抱き上げるとテーブルからソファへ移動した。青ざめた炎の髪を撫で、軽く頬や額にキスを繰り返す。 「…っ…」 「大丈夫か?」 「……じゃねーよ」 ソファの上で横抱きにされている自分の姿に気付くと炎は顔を赤くしながら降りようともがく。し かし、痛みが腰から全身に走り抜け、くったりと海の腕の中に沈没してしまった。 「…どうしてこんなの知ってるんだよ」 「私も普通の男子だと言っただろう。これ位の知識はある」 にやりと笑って言う海に、炎はそうなのか?と眉を潜めた。いくら健全な男子でも、男同士でどうするか、なんて知ってるはずないと思うのだが。 「本当は、もっと抱いていたいのだが、初めてでは辛いだろうと思って加減したのだ」 「なっ……」 炎は耳元にキスしてそう言う海に、絶句した。 もしかしたら、自分は海をとんでもなく誤解していたのではないだろうか、と炎はそろりと見上げた。 「誰にも絶対渡さん。覚悟しておけ」 にっこり美人の顔で笑い掛け、凄いことを告げる海に、炎はたじろぎながらもその口付けを受け止めた。 |