LOVE POWER

   三度目の古代自然コントロールマシンによる襲撃を退けた後、我夢はキャサリンを送るため地上に降りた。今回の出来事は、いつもは気が強い感じのキャスでも少々ダメージを受けたらしく、冗談を言ってはしゃぐかと思えば、黙って考え込んでしまったりもする。
 ダヴライナーの中でもそんな調子のキャスを心配そうに見る我夢に、彼女は微笑んで言った。
「大丈夫よ。もう暫くしたら制御できるから」
「君は強いね」
「私より我夢の方がずっと強いでしょ」
 にっこり笑ってキャスはウインクを投げて寄越した。その口調には、我夢はガイアなのだということが含まれている。それに曖昧に笑って応え、我夢は視線を戻した。
 確かにガイアになれば強いけど、本来の自分はとても強くなんかない。人にあれこれ言われるのが嫌で、誰にでも笑顔で接することを覚えてしまった。みんなは人懐こいかずうずうしい奴だと単に思っているのかもしれないが、ほんとは臆病なだけなのに。
「ねえ、我夢。降りたら暫く時間取れる?」
「あ、うん。明日まで地上に居られるよ。何で?」
「こないだの続き、しまショウ」
 こないだ? と我夢は首を傾げた。くすくすと笑うキャスに、デートよと言われ、我夢は顔を赤くして頭を掻いた。
 地上に降りると、本来ならチャーターしてきたXIG専用ジェットでカナダに帰る所を、キャスは夕方の一般ジェットで帰ると言って我夢を引き連れ街に出ていった。
 街はあれだけ怪獣の驚異に晒されているというのに、活気を落としてはいない。それだけ人間というものはタフだということなのだろう。
 港が見える公園にやってきて、デート(の真似事)をしていた二人は、前方に見える人影に足を止めた。それは梶尾と律子で、なにやら真剣な表情で歩いている。何なんだろう、と我夢は梶尾に声を掛けようとしたが、キャスに強く引っ張られ近くの木陰に連れ込まれてしまった。
「何だよ」
「邪魔しちゃダメでしょ」
「邪魔…かな」
 そうか、あれもデートなのかとキャスに言われて我夢は気が付いた。そういえば、梶尾にしては気張った格好をしてるし、なんと花まで持っている。興味津々で我夢が木の陰から覗いていると、二人は微笑みあってキスしていた。
 慌てて我夢は身を返し、赤くなって狼狽えた。知ってる人のラブシーンというものは、テレビや映画などで見るものより何倍も恥ずかしい気がする。そんな我夢を笑って見ていたキャスは、身を寄せ我夢の頬に軽くキスした。
「き、キャス…」
「守ってくれてありがとう。誰も貴方にお礼を言えないから、私が代表ってコトね。でも、一人でなんでもしようとしないで、私に力を貸せることがあったら言って。今度みたいに」
「うん…ありがと。でも、僕は一人じゃないよ。XIGのみんなが居るし、もう一人ウルトラマンが居る…アグルが」
 それは初耳だったキャスは、驚いて目を見開いた。そしてにこりと笑むと、服に付いた草を払って立ち上がった。
「そう…だから、今そんな顔してるんだ。あのドイツの時は、酷い顔だった。心配してたんだけど、大丈夫ネ」
「キャス…」
「もう行くわ。また会おうね。死んじゃ駄目だよ、我夢」
 にこりと笑ってキャスは踵を返し、手を振って歩いていった。我夢は呆然と見送っていたが、慌てて送らなくちゃと彼女を追いかけようとする。だが、腕を掴まれて引き留められてしまった。
「藤宮? いつから居たんだ?」
「さっきから」
 何故か憮然としている藤宮に我夢は首を捻りながら、再びキャスの方を見た。が、既にタクシーにでも乗ってしまったのか姿は見えない。
「何をしていた?」
「何って…」
 冷たい声で問われ、我夢は口ごもった。何でそんなこと訊かれなきゃならないんだという疑問もあるし、クールな態度はいつものことだが、今日はことさら不機嫌という文字を背負っているような気がする。
「あいつと、付き合ってるのか」
「付き合う? キャスと? デートはしたけど」
 我夢の言葉に、掴んでいた藤宮の腕に力が入った。
「痛いよ、藤宮。何か怒ってんの?」
 何も言わず、藤宮は我夢の腕を掴んだまま歩き始めた。何に怒っているのか判らない我夢は、理不尽な態度に段々腹が立ってくる。
 公園のはずれまで来ると、ほとんど人の姿は見えなくなる。木立の中に入っていく藤宮の腕を、我夢は振り払った。
「痛いってば! もう、何怒ってんのか、言ってくれないとわかんないだろ」
 藤宮は木の幹に我夢の身体を押しつけ、逃さぬように腕を両脇に付いて顔を近付けた。むっと睨み付ける我夢に目を眇め、藤宮は唇を合わせた。
 驚く我夢に更に口付けようとした藤宮は、両手で自分の口辺りを押さえられ、憮然として片手でそれを取り除く。
「こ、こんなとこで何考えてるんだよ。誰かに見られたら」
「誰に見られようが構わない。見たい奴には見させとけ」
 顔を赤く染めて詰る我夢に、藤宮はそう言い捨てると再び唇を寄せた。顔を逸らす我夢の顎を掴み、何度も口付けていく。次第に我夢も周りの状況を忘れ、藤宮に応え始めていった。
「は…」
「我夢…」
 濡れた音をたてて唇が離れると、我夢はますます頬を染めて俯いた。
 藤宮はその頬に唇を寄せ、滑らせて耳朶に舌を這わせる。びくりと肩を竦める我夢を抱き締めると、背中から腰へと片手で撫で下ろした。
「ちょ…藤宮、何すんだ」
 首筋にキスを繰り返し、藤宮は片手でしっかり我夢をホールドしながら、もう一方の手で腰から双丘をジーンズの上から撫で回す。その手が前に回ってきて、一番敏感な部分を布ごと掴んだ時、焦って我夢は身を捩り手を振り解いた。
「や、やめろって。ほんとに、何してんだよ。もう…」
「……」
 息を整えながら怒る我夢に、藤宮は僅かに頬を歪め、くるりと踵を返し歩き始めた。我夢は唐突な藤宮の行動に驚いて後を追いかけた。
 隣に並んで歩き始めても、藤宮は無言のまま我夢を見ないで先へ進んでいく。公園を離れ、街中に出ても脇目もふらず歩いていく藤宮に、我夢は一体なんなんだと不機嫌と不可解がない交ぜになった気持ちでちらちら横を見ながら付いていった。
 平日の昼時を過ぎた時間の街は、昼休みを終えて会社に戻る人々や買い物をする主婦達で賑わっている。通り過ぎるときに開かれた店の扉の方から、いい匂いが漂ってきて思わず我夢はお腹を押さえた。
 キャスを送るついでに食事していこうと思っていたから、まだ何も食べてない。どこかで食事したいけど藤宮を放っていけないし、と飲食店と澄ました顔で隣を歩く顔とを見比べる。
「あのさ、お腹空かない? どっかでご飯食べようよ」
 そんな遠慮がちの言葉も無視して歩いていく藤宮に、僅かに腹を立てていっそ別行動で一人で食事に行こうかと我夢は考えた。藤宮はきっと自分が絶対付いてくると考えているんだろう。いつもいつも追いかけてばかりの犬じゃないんだから、と我夢は憤慨して次に目に付いたレストランへ入ってやると心に決めた。
 目の前のしゃれたビルの一階に中華レストランが見えてきた。なかなか美味しそうな外観である。外観だけじゃほんとに美味しいかは判らないけどここに決めた、と我夢は決心して藤宮の方に向き話しかけようとした。
 が、藤宮は真っ直ぐそのビルの方に向かっていく。もしかして、ここで食事していくつもりなのかと、我夢は開き掛けた口を閉じて付いていった。一階のエントランスを潜ると、中華独特の香りが漂ってくる。外に提示されたメニューを見た我夢は、店の前で足を止めた。
「早く来い」
 藤宮は店の前を通り過ぎ、奥のエレベーターへ入ると我夢に呼びかけた。暫く逡巡していた我夢は、エレベーターの扉が開くとその店に入るのを諦めて駆け足で向かった。
「どこに行くんだ?」
「食事したいんだろ」
 薄く笑って言う藤宮に、我夢は不機嫌に顰めていた眉根を解いた。このビルの別の階に藤宮お勧めのレストランでもあるのだろうか。どんなお店なんだろうと、さっきまでの不機嫌さも飛んでわくわくしながら、我夢はエレベーターの表示を眺めていた。
「ここ?」
 着いたのは最上階で、普通のマンションのようである。何の変哲もない廊下の一番奥にある扉を開くと、薄暗い室内に二人は入っていった。
 カーテンを開き、外の光が入ると部屋の中が漸く見えてくる。簡素なテーブルの上には何台かのパソコン、資料が積み上がった棚、そしてベッドが一つ。
「ここって、君の部屋? 食事って、ここでするのか」
 藤宮は戸惑いながら訊ねる我夢に、にやりと笑い掛け抱き寄せた。驚く我夢に深く口付け、藤宮は上着を剥ぎ取っていく。
「藤宮っ、食事…」
「相変わらず鈍いな、お前は」
 食事の意味が違うとやっと気付いた我夢は、呆然として藤宮の顔を見つめた。腹を空かせた狼のねぐらへ、のこのこ着いてきてしまったらしい。
 シャツの下から手を差し入れられ、我夢は冷たさにぞくりとして身を引いた。逃げる腰を引き寄せ、藤宮は唇や頬に軽くキスを繰り返しながら、手際よくシャツを剥がしていく。
「やだ! 食事が先。お腹空いてるんだってば」
 藤宮を引き剥がそうと、我夢は両腕を突っ張って身体を離した。抱き合うのは嫌じゃなくなったが、何も言わず騙したように連れ込まれて成すがままというのは癪に障るのだ。
 最近破滅招来体の襲来の感覚が短くなってきていて、ぴりぴりと憔悴を感じている今、できれば休暇の時くらい、ゆっくり語り合いたい。いつもは会えても仕事中にちょっと暇をみて、とかいきなり藤宮が現れて二、三言話して終わりという場合が多いから、余計だ。
 藤宮に背を向けて、投げ捨てられたシャツを拾おうとした我夢は、後ろから抱き締められてぎくりと動きを止めた。
「あいつにキスされて、嬉しそうだったな」
「藤宮? 何言ってんだよ。…キス?」
 見られてたのかと、我夢は僅かに動揺したが、あれは親愛のキスであって恋人のそれではない。そんなこと、見てたって判るはずなのに。
 もしかして、キスされて嬉しがってたことを、お子様だって馬鹿にしてるのだろうか。自分は大人の女性と経験あるからって…聞いたことはないが、絶対あるに違いないと思っている…と我夢はむっと唇を尖らせた。
「離せってば」
「嫌だ」
「藤宮!」
 藤宮は抗う我夢を強く抱き締め、後ろから手を伸ばし胸を撫で始めた。我夢の胸の突起を指先で擦り、転がすとぴくりと肩が揺れる。
 我夢は胸と腰に回されている藤宮の腕を取り除こうとしたが、耳元に何度も口付けられ嬲られて抵抗に身が入らない。胸の突起を弄ばれると、じんとした熱さがそこから下半身に向かっていき、思わず腰を引いた。
 ぴたりと押しつけられた藤宮の、熱いそれが脈打つ感覚が布を通しても感じられ、我夢は顔を赤く染めて身を捩る。だが、藤宮の腕も身体も離れることはない。
 藤宮は藻掻く我夢に焦れて、布の上から我夢自身を強く握り締めた。痛みに竦む我夢を、今度は宥めるように揉み扱く。顔を俯かせ、熱い吐息を付き始める我夢の身体からズボンと下着を落とし、藤宮は直にその部分を握り締めた。
「ぅ…」
 力無く我夢は藤宮の手を押さえる。けれど、それはもう隠しようもなく昂りを見せ始め、我夢は唇を噛み締めた。
 堅く尖る胸の突起を指先で摘み、藤宮は我夢の項や肩口に舌を這わせていく。緩急を付けて扱く藤宮の愛撫に、自身は先走りの露を零し始め、我夢は膝が砕けそうになって胸に回されている腕に縋り付いた。
 藤宮は我夢を支えながら、カーペットの敷かれた床に膝を付かせる。丁度ベッドの横に膝を付いた我夢は、目の前のマットレスに両腕を付き崩れそうな身体を支えた。
「あっ…」
 藤宮は四つん這いのようになった我夢の背中から押し包むようにのし掛かり、再びゆるりと自身を扱いた。途端に我夢の口から堪えきれなかった声が漏れる。
 藤宮は双丘を片手で撫で回し、閉ざされた部分を割り開くと秘められた部分に舌を這わせた。ぎょっとして我夢は腰を引こうとする。ぎゅっと自身を握り締めてそれを許さず、藤宮は更に舌でその部分を潤していった。
「や…だ…ふじみ…や…」
 腰が揺れるのを止めることが出来ず、我夢は涙声で藤宮に訴えた。振り向いて見つめる我夢の濡れた瞳に、藤宮は顔を離し指先を潜らせていく。
 ぎゅっと締め付けるその部分を解しながら、更に前を愛撫すると、我夢の口からは止めどなく熱い息が零れ始めた。
「あっ…ぁ…も」
 弾けそうになる我夢の根本を強く握り締め果てることを許さず、藤宮は熱くなっている己自身を、収縮を繰り返すその部分に埋め込んだ。
「うっ…あ…」
「…く…っ…」
 きつく締め付ける我夢に射精感が背筋を駆け上っていくが、藤宮は息を吐いてそれをやり過ごすと、ゆっくり突き上げ始めた。
 足を広げさせ、更に奥深くまで貫きながら藤宮は我夢自身を再び愛撫していく。断続的に漏れる我夢の嬌声に煽られるように藤宮は動きを早め、一気に最後へと向かっていった。
 我夢もまた、藤宮の手と突き上げられる動きに翻弄されていく。
「ああっ…!」
 藤宮の手に追い上げられ、我夢は背筋を反らせて昇り詰めた。蠢動する動きと締め付けに、藤宮も低く呻いて我夢の中に自身を放つ。
 肩で荒い息を整える我夢の中から自身を抜くと、藤宮はその身体を抱え上げベッドに横たえた。
「ふじみや」
 服を手早く脱ぎ覆い被さってくる藤宮に、我夢はぼんやりと目を向けた。
 藤宮は、軽く口付けると鎖骨から胸へ唇と舌を這わせていく。さっきから与えられる快感に痛いほど敏感になっていた突起を舐め上げられると、我夢はびくりと身体を仰け反らせた。
「まだ…?」
「腹五分目って所だな」
 突起を唇と指先で弄りながら、藤宮は薄く笑みを浮かべて訝しげな我夢に応える。げっと目を見開く我夢の萎えた自身を揉み扱き、抵抗を奪いながら藤宮は頭を下半身へと降ろしていった。
「…食べ過ぎは毒だよ」
「育ち盛りなんだ」
「それ以上育ってどうす…んっ…」
 藤宮に自身を含まれ、我夢の言葉は吐息に消える。
 再び我夢が翻弄されるまでに、時間は掛からなかった。

 下の中華レストランから取った出前のチャーシュー麺と炒飯を猛然と食べながら、我夢は満腹になって満足そうにコーヒーを飲んでいる藤宮をちらりと眺めた。
「ごちそうさま」
 箸とレンゲを置いて、我夢は両手を合わせた。これで漸く腹八分目という所である。ほんとはこれに餃子とシュウマイを追加して欲しいところだ。
「あ、そうだ藤宮、何か怒ってなかった?」
 こんなことになった原因を突き止めようと我夢は問いかけた。が、藤宮は気まずげに視線を逸らして顎を指で撫でている。
「…キスしてたから」
「キス? またそれ? そんな馬鹿にしなくたっていいじゃないか。どうせ僕は女の子にもてないよ。藤宮みたいに経験ほーふじゃないし」
「俺以外と、して欲しくなかった」
「え?!」
 ぼそりと小さい声で言われ、我夢はむっと膨らませていた頬を引っ込ませた。それって、もしかしてヤキモチ妬いたってことか。
「うそぉ…」
 びっくりして目を見開いている我夢に、藤宮は近づき口付けた。
「嘘じゃない…俺以外とはするな。でないと、歯止めが利かなくなる」
 我夢は顔を真っ赤に染めて、真剣な瞳の藤宮をただ見つめていた。

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