のんびりとした空気が流れるエリアルベースのラウンジで、我夢は頬杖を付いてぼんやりと空を眺めていた。このところ事件らしい事件もなく、暇を持て余している。これ幸いと今まで起こった事件についての研究を徹夜でまとめてしまったために少々寝不足である。
暇なことはいいことだとはいえ、あんまりだらけていると次に何かが来たとき、対処できなくなるかもしれない。こういう時こそトレーニングだ、と吉田に引っぱり出されてさっきまでやっていたのだが、逃げてきてしまった。 ふあぁと大きく欠伸をした我夢は、後頭部を軽く叩かれて、ぎょっとして振り返った。 「でっかい欠伸だな。暇なら訓練でもしたらどうだ」 「さっき、吉田さんにしっかり絞られましたよ。…夕べはレポート纏めてて…」 再び欠伸をする我夢に呆れた目を向けて梶尾は前の席に座った。 「研究熱心なのはいいが、あんまり頭を使いすぎるなよ。少しは休んだ方がいいかもな」 「はあ…明日は休暇なんですけど、下に降りないで一日寝てようかと」 「…そうか……」 一瞬何か言いたそうにした梶尾だったが、それを飲み込むようにして頷き、取ってきた食事を採り始める。ちらっと窺うような梶尾の視線に気付かず、我夢はうつらうつらと半目を閉じていた。 「明日は俺も休みなんだが……」 「え?…何か言いました?」 「いや…別に…」 ぼそりと小さく呟くように言う梶尾に、はっと目を開いて我夢は聞き返した。梶尾らしくなく口ごもった言い方に、我夢は不思議そうに見返した。 「梶尾さん?」 「…明日暇なら、俺と…」 俺と、何だというのだろうか。我夢が梶尾の続きの言葉を待っていると、後ろから賑やかな音楽と共に三人分の足音が近づいて来て、二人のテーブルの側で立ち止まった。 「我夢、明日休みなんだって?奇遇なことに私も休みなんだ、デートでもしよっか」 「えっ、ええ?!」 ぽんと後ろから両肩に手を掛けられ、我夢は焦って振り向いた。チームクロウの一人、多田野がにっこりと我夢に笑いかける。 「慧、からかうのはやめな。慧がお子さま趣味だとは思わなかったね、てっきり米田さんかと」 「や、やだっ!そんなんじゃないって」 三島に米田の名前を出されて慧は慌てて手を離し、大きく手を振って否定した。呆然と見ていた我夢は、苦笑する稲城に肩を叩かれてぎくりと身を竦めた。 「コマンダーがさっき見かけたら部屋に来るようにって言ってたわよ、また何かしでかしたの?」 「え?あ、そんなことはないと…思います…」 稲城にもからかわれるのかと引いていた我夢は、そう言われて立ち上がった。最近は何もしてないからお小言があるとも思えない。重要な件なら本人に直に来るよう伝えるだろうから、そんなにたいしたことじゃないかもしれないが。 「すぐ行ってみます。……あの、梶尾さん、さっき何か言いかけましたよね」 行きかけた我夢は、はっと気付いて振り返った。苦虫を噛み潰したような表情で梶尾は腕を組みそっぽを向いている。 「…いや、いい。早く行け」 目だけ動かして我夢に言い、梶尾は再び視線を逸らした。不思議に思いながらも我夢はその場から立ち去る。残されたクロウの三人と梶尾の間に暫く無言の間が流れた。 「もうちょっと、誘い方工夫した方がいいんじゃない」 「そうそう、あんなんじゃお子さまにはぜーったいわかんないよね」 にっこり笑顔で稲城は梶尾に言い、多田野と三島もうんうんと頷く。キッと三人を睨み付けた梶尾は、憮然としたまま半分も手を着けてない食事の乗ったトレイを持ち、席から離れた。 石室の部屋に入った我夢は、一礼すると何の用か訊ねた。 「明日は休暇だったな…」 「はあ…」 何で誰も彼も自分の休暇のことを言うのだろうか。もしかすると、休みなんて取らずに仕事しろってことなのか?と我夢はぽりぽりと頬を掻いて石室の言葉の続きを待った。 「何か予定はあるのか」 「いえ、ちょっと最近疲れてるんで、一日寝てようかと…あ、もし何かあるんでしたらやりますけど」 「いや、それならいい。確かに疲れているだろう……。地上になど、絶対、降りずに身体を休めた方がいい」 絶対、という文字が四倍角くらいで聞こえたのは気のせいだろうか、と我夢は引きつった表情で頷いた。もとより、地上に降りるつもりはないのだし。 「そうさせてもらいます…あの、何か他に?」 石室はいつものようにかなり含みを持った視線で我夢をじっと見つめていたが、ふいと視線を逸らすと後ろを向き窓の外に向けた。 「別にない。くれぐれも、外に出るなよ」 「はい…」 何なんだろうと思いつつ、我夢は敬礼して部屋を出た。首を傾げながら部屋に戻った我夢は、レポートに不足していた資料を取り寄せようとジオベースに連絡を取るためにディスプレイに向かった。アクセスを開始してすぐ、ジオベースの樋口が現れる。 「あ、樋口さん、昨日の資料なんですけど…」 「それなら今晩のうちに纏めて送ります」 「ありがとうございます。それで全部ですか?サンプルなんかは」 「ありますが…いえ、こちらから誰かに持っていかせます。地上に降りて来る必要はありません」 我夢の問いに頷きかけた樋口は、はっとして急に付け加えた。いつも穏やかで口調を荒げることなどない樋口の慌てぶりに、我夢は僅かに眉を顰める。 「明日休みなんで、そっちに行ってもいいんですけど…」 「いえそんなことは…、ではまた」 ぷつりと回線は閉じてしまい、我夢はますます眉を顰めた。怪しい、怪しすぎる。みんなの様子が。自分を地上に降ろさせないように画策しているような気がして、我夢は何故なんだろうと首を捻った。 今のところ、怪獣が現れる気配はないし…あったとしたら、余計に自分だって前線に向かわなければならないのだから、遠ざけられる理由は無い。 今までだって、何度も地上で活動してたし、今更降りるなというのは変だ。それに休みということが係わってくるのか。 我夢は考え込むうちに自然と瞼が重くなり、欠伸を漏らすと机に突っ伏して腕に頭を乗せ、少しだけ休もうと目を閉じた。 |
ふと、誰かに呼ばれたような気がして我夢はゆっくり顔を上げた。いつのまにか、本格的に眠っていたらしい。時間を確かめると明け方近くなっている。
「シャワーでも浴びて、寝なおそ…」 大きく伸びをした我夢は、そう呟くと立ち上がった。さっき呼ばれたような気がしたのは何かと周りを見回すが、メールが届いてる様子もない。気のせいだろうかと思いつつ部屋を出た我夢は、シャワールームに歩き出した。 基本的に事件の無い時は、エルアルベースも地上の生活と変わりはない。24時間交代で誰かが必ず部署に着いてはいるが、夜中や朝方は一人か二人になり、廊下も人気はなかった。 角を曲がり、扉の前に立った我夢はそれが開いた向こう側に見慣れた姿を見いだして一瞬目を見張った。黒ずくめの格好にしなやかな肢体が、人気のない廊下に影を落としている。 「藤宮…どうしてここに」 「来い」 「えっ、どこへ行く…うわっ」 ここに居られる筈のない彼の姿にパニックしていると、我夢は藤宮に腕を取られ引きずられるようにしてエリアルベースの艦橋部に連れてこられてしまった。 「どういうつもりだ!またこのベースを落とそうとでもいうのか。そんなことはさせないぞ」 漸く腕を振り払い、我夢は藤宮を睨み付ける。 「そんなつもりはない。……今日は休みなんだろ、付き合え」 ふっと笑う藤宮に驚いているうちに、我夢は再び腕を取られてしまった。ついでに引き寄せられて間近に藤宮の顔が寄り、耳元に囁かれる。 「つ、付き合うって何をっ?!」 びくんと肩を竦めて我夢は藤宮から離れようとした。だが、あっという間に足を掬われ抱き上げられてしまう。ぎょっとしている我夢に、ちゃんと掴まっていろと言い、藤宮は一歩踏み出した。 「我夢!…そいつから離れろ!」 突然怒鳴り声が響き、我夢は驚いて藤宮の肩越しに後ろを見た。走ってきたのか、乱れた髪もそのままに梶尾が立ち、ジェクターガンを構えている。 「か、梶尾さん」 いくら至近距離とはいえ、梶尾の腕では万が一ということもある。自分たちに当たらなくても、エリアルベースの重要機器に当たったらどうするのだ。 「飛ぶぞ」 「ええーっ、ちょっと待…」 梶尾を無視して藤宮は呟き、扉を開いて宙に飛び出す。慌てて梶尾がそこに駆けつけると、青い光が一直線に地上へ向かっていくのが見えた。 「ちっ…」 梶尾は舌打ちをすると踵を返し、ファイターの格納場所へ走っていった。 「大変です。どうやら侵入者があった模様で、我夢が連れ去られました」 コマンドルームに堤の慌てているのか落ち着いているのか判らないような声が響き、朝っぱらから呼び出された敦子やジョジーは眠そうだった目をぱっちりと開いて、堤の方を凝視した。 「我夢が…」 「誘拐われた?そんな…子供じゃあるまいし…」 「すぐにリザードの瀬沼に連絡を」 信じられないというように呟いた二人は、即応える石室においおいと心の中で突っ込みをいれる。が、あの目で見られ、慌てて瀬沼を呼び出した。 「連絡が取れました。メインスクリーンに出します」 敦子の言葉にうむと頷き、石室はスクリーンに向かった。 「我夢が藤宮博也に拉致された。すぐに探し出して保護してもらいたい」 「えっ…侵入者って藤宮だったの」 「……何でコマンダーそんなこと…」 ぼそぼそと敦子とジョジーが会話する中、スクリーンの中の瀬沼は僅かに驚いた表情を浮かべたが、了解するとスクリーンから消えた。 「あっ…あれれ…」 「何?」 モニターに向かってジョジーが驚いたように言葉を発し、敦子は覗き込んだ。 「やだ…」 「どうした?」 「は、はい…あの、ファイターSSが発艦しました…多分、梶尾リーダーかと…」 石室の問いに戸惑うように答え、敦子は眉を顰める。無断発進など、普段の梶尾では考えられない。 「そういや、今日梶尾さんも休みって言ってたよね」 ジョジーが言うと、まさか梶尾に限って休みだからとSSを私用に使う訳は無いわよと敦子は睨み返す。だが、現に無断で発進し、地上に向かっているではないか。 「……素早いな…」 ぼそりと呟いて顎に手を掛け考え込むコマンダーに、どう接して良いものやら、二人は縋るように堤を見た。だが、堤は触らぬ神にたたりナシというように、無関心を装っている。 戸惑うばかりの女子二名と、無関心な堤、何を考えてるんだか全く解らない石室を擁したコマンドルームにさむーい空気が漂っていた。 |
地上の大きめな公園に降り立った藤宮は、呆然としている我夢ににやりと笑い掛けた。
「いつまでこうしていようか」 「え?わーっ、降ろせっ」 はっと今の自分の状況に気付いて我夢はじたばたと暴れ、漸く地面に足を付いた。ぜいはーと息を付き、キッと藤宮を睨み付ける。 「どういうつもりだっ、あ、あんなことして」 「降りてこないなら迎えに行ってやろうと思ったまでだ」 しれっとして言う藤宮に、我夢はがっくりと肩を落とす。そんなことにウルトラマンの力を使っていいものなのか。 「何で今日が休みだって…あっ、またハッキングしたな」 樋口とのやりとりでも聞いていたのだろうか。今日の休みはずっと寝てるつもりだったので、連絡をしなかったのに、と我夢は呆れたように藤宮を見た。 確かに最近休みの度に地上に降りて藤宮と会っている。それが楽しみではないと言えば嘘になるだろう。同じウルトラマンとしてだけでなく、何となく心を惹かれ、会っていると嬉しいのだ。藤宮も同じ気持ちだとは思わなかったけど。 「恋人の動向を知りたいと思うのは普通のことだろう」 「こ…こいびと……って…」 もしかして、ひねて拗ねてた三年の間に常識が欠落してしまったのだろうか。友人とか仲間とかと言葉間違えてないか、と我夢は言おうと口を開き掛けた。 「好き合ってる。休日の度にデートしている。お互いの気持ちも、確かに地球と人類を守るという所では対立しているが、それ以外ではばっちり合っている。主観的に見ても、客観的に見ても、恋人同士に違いないだろ」 「ば、ばっちり……」 藤宮のとんでもない言葉に、我夢は目を点にしてしまった。確かに好きは好きだが、どうしてそこまで発展するのか。 「行くぞ」 唖然とする我夢の手を引き、藤宮はどことなく嬉しそうにしながら、街中へと歩いていった。 今日は平日で朝のこの時間は通勤する人間で街は忙しない。そんな中、黒ずくめの藤宮とXIGスーツの我夢は目立ちまくっている。こんなことなら、せめて私服に着替えておくんだったと後悔しても遅く、我夢は無関心を装いながらもちらちらと突き刺さる視線に身を固くして歩いていた。 どこに行くのかと前をすたすた歩いている藤宮を見ていた我夢は、突然横を曲がり店に入っていくのに慌てて付いていった。 「いらっしゃいませ、ご注文は何にしますか?」 にっこり営業スマイルで、目の前の異質な二人組にも果敢に声を掛ける彼女はプロである。藤宮は黙ってカウンターの上のメニューを指さし、ゴールドカードを差し出した。ひくりと彼女の頬が引きつったように見えたのは、見間違いではないだろう。我夢は冷や汗を浮かべつつ、目立たない端っこの席へ着くと、藤宮がトレイを持ってくるのを待った。 「……君でもこんなとこへ来るんだ…」 「朝は他にやってないからな」 朝マックのセットを置き、藤宮は食べろと促す。そっちの前にはミルクが一パック置いてあるだけだ。 「何でコーヒーとかにしないんだ?」 「マズい…」 確かに、そうかもしれないと我夢はメニューに手を着けた。朝っぱらからこんなことで、朝食時間には遅いけれど丁度腹が減ってたのだ。 美味しそうにパクつく我夢を、藤宮は僅かに目を眇めて見つめる。そんな二人の周辺に誰も座ることができず、遠くから密かに注目を集めていた。 突然我夢の腕のXIGナビが鳴り、慌てて開いた。向こう側には瀬沼の困惑した表情が写し出され、我夢は引きつり笑みを浮かべながら応える。 「はい…あの、何か」 『…コマンダーからあなたの保護願いが出されてまして…今そちらに向かいます』 保護願い?!石室が?何でどうして、と問おうとした我夢は、ぐいと腕を引かれて話せなかった。 「我夢は今日休暇だ。邪魔をするな」 「わあ、ちょ、ちょっと、ふじ…」 言うだけ言うと、さっさと通信を切ってしまう。ついでに手首から外して、ぽいとトレイの上に投げ出した。 そのまま我夢の腕を引き、席から立ち上がると藤宮はさっさと歩き始める。あわあわと我夢が狼狽えまくっているうちに、外に出た藤宮は次の通りを再び曲がり、やっと開店したばかりのブティックへ入っていった。 「適当に見繕って着替えろ」 「てきとーにって…いいよ、別に」 高そうな店の品物を見て我夢は断った。 「その格好で今日一日居るつもりか。いつもの小汚い格好よりはマシだが」 いつも黒ずくめで同じ服しか持ってないんじゃないかと思われる藤宮には言われたくないと、我夢は踵を返して外へ出た。確かに制服は目立つな…と自分を見返して、我夢ははっと思い出した。 「ナビ!あそこに忘れてきちゃった」 慌ててさっきの店に戻ろうとする我夢の肩をがしっと掴み、藤宮はまた歩き始めた。 「藤宮…どこ行くんだよ〜」 「次は映画か、それとも遊園地か」 冗談だろー、と我夢は叫びそうになった。ほんとにデートのつもりなのか、それともからかってるだけなのか。 「こ、公園いこ、公園」 せめて二人で居ても怪しくない…どこにいても充分妖しいと思うが…場所へ行こうと我夢は提案した。暫く考えていた藤宮も、頷くと歩き始める。 ほっとして一番近くて一番広い公園目指して歩き始めた二人の前に、ぬっと現れる姿があった。 「あ、瀬沼さん…」 「探しましたよ。これを…忘れ物です」 真面目な表情を浮かべてナビを渡す瀬沼に、すみませんと礼を言って我夢は手を差し伸べた。が、手渡される瞬間、がしと腰を抱えられて引き離されてしまう。 「えっ?!」 「しまった!」 渡そうとして実は藤宮の手から我夢を引き離そうとしていた瀬沼は、悔しそうに拳を握りしめ、風のように素早く走り去ってしまった二人の後を追いかけ始めた。 「なんで逃げるんだよ〜」 「邪魔はさせない」 走り続けてやっと公園に入った我夢は、息を荒げて近くのベンチに座り込んだ。はあ〜と空を見上げ顔をぱたぱた扇ぐ我夢の隣に、当然のように藤宮は腰を下ろした。 「せっかくの休みなのになあ…もう…」 ゆっくり眠るつもりの休みだったのに、朝から走りっぱなしでもうぐったりである。こんなにいい天気なのに何で男二人で公園に居なければならないんだ。 ほんとに上天気な午前中の公園は、人の姿もあまり見えず、のんびりとした空気が流れている。我夢は一つ欠伸をすると、開けているのが辛くなってきた目を閉じた。 こつんと肩に凭れかかってくる我夢に、いつもは鋭い藤宮の目が穏やかに和み、口端にうっすら微笑みを浮かべてそっと肩に手を回し深く持たせ掛ける。 よほど疲れていたのか、あどけないとさえ言える貌で微かに寝息を立てる我夢に、藤宮はそっと唇を寄せようとした。 だが、突然の轟音に穏やかな静けさはかき消され、我夢も飛び起きてしまう。 「な、何だ?怪獣か?」 我夢は目を二、三度瞬かせ、目の前に降りてこようとする物を凝視した。 「な、何でファイターSSが…」 そう、それはファイターのリーダー機SSだった。公園の隣にあるグラウンドにゆっくりと降り…何もやってなくて本当に良かった…エンジンが停止する。唖然として見ていた我夢は、中から梶尾が姿を現すのを見て、二度びっくりした。 「梶尾さん…何で…」 何か起こったのかと、駆け寄ろうとした我夢の手を掴み、藤宮はそれに背を向けて走り出す。広い公園の木々の間を隠れるように走っていた二人の前で低い茂みが揺れ動き、そこから梶尾が飛び出してきた。 「…どこへ逃げるかなんてお見通しだ。さあ、我夢を返してて貰おうか」 びし、とジェクターガンを構えて決めているが、以前のことを思い出して我夢は頬を引きつらせた。あれから訓練したとはいえ、射撃の腕はあがったのだろうか。 「梶尾さん、勝手にSS持ってきちゃったんですか?」 「…今日は休暇だ。申請は…取ってある。コマンダーも了解済みだ」 「………まさか…」 瀬沼といい、梶尾といい、自分を連れ戻すためにこんな大げさなことをしているのだろうか。それもコマンダー公認で?そういや、やけに地上に降りるなと念を押していたのは、もしや藤宮がこうすると解っていたからだろうか。 つくづくコマンダーは凄い人だと思っていいのか、訳わかんない人だと思えばいいのか、我夢は考えを投げ出して力無く笑うしかなかった。 「我夢も休暇だろう、誰と何をしようと、構わない筈だ…。ああ、そうか、俺に先を越されたのが悔しいのか」 ふっと笑う藤宮に、梶尾の眦がぴくぴくと引きつり上がる。指に力が入るのを見て、我夢は慌てて前へ飛び出した。 「梶尾さん、撃っちゃ駄目です!」 「安心しろ、麻酔銃だ……」 それでも、無抵抗の武器を持たない人間を撃つのは極めてまずいのではないだろうか。なんだか、本当に撃ちそうな梶尾に、我夢はじりじり近づいていった。 「そこをどけ!」 「駄目です」 「撃ってみろ…どうせ当たりはしない」 「何!」 煽るようなこと言うな〜と我夢は藤宮の言葉に泣きたくなってしまう。何で貴重な休暇をこんなことに使わなきゃならないんだ。 「勘弁して下さいよ〜。もう二人とも、いい加減にして。僕は休みたいんです。ええもう、絶対休みますから。邪魔しないで下さい!」 とうとう我夢の神経はぶち切れ、二人をその場に残してくるりと身を返すとずんずん歩き始めた。 「我夢!」 二人の声がハモッて聞こえるが、それに情けを掛けたら静けさは訪れないだろう。 次の休暇は、絶対地上に降りないぞ、と心に堅く誓い、我夢は手頃な日溜まりを見つけると、安らかな眠りに落ちていった。 ちゃんちゃん |