all right


 その日の戦いはいつにも増してハードなものだった。アグルの光を藤宮から譲り受け、一人で戦っていかなければならなくなった我夢は、それなりに身体を鍛え、技を学んで対処してきたつもりだったのに、こう戦いが続くとそれもおぼつかなくなってくる。
 デスクワークも対破滅招来体用に、色々と資料を作ったり研究したりネットでアルケミースターズメンバーと議論したりで、このところあまり寝ていないのが祟っているのかもしれない。
 我夢はさっきまで戦っていた疲れと寝不足のために痛む頭を押さえながら、EXから降りて自室へ歩いていた。この後、今戦ってきた相手の資料作りや報告などもあるのだが、今はただ横になって眠りたいと身体が悲鳴を上げている。
「我夢、どこへ行くんだ?」
「あ…すみません。報告は後でレポートに纏めておきます」
「何馬鹿言ってんだ。疲れてるのはみんな一緒だぞ、お前だけそんなことで許されるとでも思ってんのか」
 梶尾のきつい口調に、我夢はすみませんと謝って行く先を変えた。確かに表向きはただEXで情報収集を行っているだけの自分が、命がけで戦っている梶尾たちより疲れてるなどと言えない。
 早く来い、と促す梶尾の後に続き、我夢は重い足を引きずるようにして着いていった。
「以上です」
 なんとか報告を終えた我夢は、ほっとしてイスに座り込んだ。この後、これを纏めて誰でも参照できるようデータに落とさなければならない。でも、我夢はもう立ち上がるのも億劫で、みんながぞろぞろ部屋を出ていくのをぼんやりと眺めていた。
「頭の使いすぎ?なんだかとっても疲れてるみたいだけど」
「稲城リーダー…」
 ぽんと肩を叩かれて、我夢ははっと我に返り後ろを振り返った。にっこり笑った稲城が、首を傾げて我夢を見つめている。
「大丈夫です…ちょっと寝不足なだけで…」
「そう。研究も結構だけど、ちゃんと寝なきゃ駄目よ。寝ぼけてEX落としたなんてことになったら、あの堅物くんがこーんな目をして怒りまくるから、きっと」
 指で目尻をキッと上げ、稲城は言った。それが誰のことなのかすぐに解ってしまった我夢は、力無く笑い、気を付けますと神妙に言って立ち上がった。
 このまま自分の部屋へ帰れば、資料を纏める暇もなくあっという間に眠ってしまうに違いない。さっき釘を刺された事もあるし、もうちょっと頑張ってデータを纏めようと、我夢は行く先を変更して資料室へ向かった。
 沢山あるモニタの前に座り、資料を広げるとパルからのデータも移して纏め始める。霞む目を擦りつつ、ぽつりぽつりとやっていた我夢は、くらりと目眩を起こしてモニタに頭をぶけそうになった。
「っと」
 ガツンという衝撃を予期して目をぎゅっと閉じた我夢は、額に当てられたものにはっとして目を開いた。
「居眠りしてコブ作ったなんてことになったら、恥ずかしいぞ、我夢」
「梶尾さん…」
 どうやらぶつける寸前に梶尾が手を出して額を受け止めてくれたようだ。上目遣いに見る我夢に、梶尾はからかうように言うと、身を乗り出して顔を見た。
「我夢…お前」
 真剣な表情になり、梶尾は手を当てたままイスごと我夢を自分の方に向け、まじまじと見つめた。「な…なんですか?」
「顔色が悪いぞ。どうしたんだ」
「単なる寝不足です、あの…手離して下さい」
 間近に顔を寄せられ、我夢は焦って身を引こうとしたが、ますます梶尾は顔を近づけてくる。額に当てられた手から熱が全身に回るようだ。
「馬鹿!寝不足でそんな顔色になるか。こんなとこに居ないで、さっさと医務局へ行け」
 やっと手が離れたと思ったら、二の腕を掴まれてぐいと持ち上げられた。必然的に立ち上がった我夢は、再びくらりと目眩を起こし、思わず梶尾に縋り付くような体勢になってしまう。ぎょっとして梶尾は我夢を引き離そうとした。
「ご、ごめんなさい…このデータ纏めたら、部屋に戻って休みますから…」
 慌てて我夢も梶尾から離れ、再びイスに腰を下ろそうとした。それを梶尾は引き戻し、腕を掴んだまま歩き始めた。
「か、梶尾さん」
「さっきは言い過ぎた。そんなものは後でやればいい」
「解りましたから、離して下さい。医務局に行く程じゃないんです…ほんとに寝不足なだけですから。部屋に戻って寝れば」
 梶尾はぴたりと足を止め、ゆっくり我夢の方を振り向いた。我夢は安心させるように笑みを浮かべると、梶尾の腕に手を当てた。
「じゃ、部屋まで送る」
「ええっ?!」
 腕を離してくれるかと思ったのに、梶尾は我夢の腕を取ったまま方向を変えて私室がある方へ歩き出す。驚きながらも我夢は引っ張られるまま自分の部屋まで来てしまった。
「えーと…じゃ、ここで」
「早く開けろ」
「…はい」
 部屋の前まで来れば離してくれるかと思っていた我夢は、梶尾が自分が大人しくベッドに入るまで離すつもりが無いことを知ると諦めて扉を開ける。一緒に入った梶尾は雑然としている我夢の部屋を一瞥すると、大げさに溜息を付いてみせた。
「ここで寝てるのか、お前は」
「あ…はは、だから入れたくなかったのに…」
 ぼそぼそと小さく呟く我夢を自分の方に向かせ、梶尾は漸く手を離すと今度は上着のジッパーに手を掛けた。ぎょっとする間もなく上着を剥ぎ取られ、我夢は焦って止めようとした。が、梶尾はそのまま我夢の胸を押し、ベッドに倒してしまう。
「わっ…こ、こっちは自分で脱ぎます」
 ついでズボンにまで手を伸ばそうとする梶尾を何とか押しとどめ、我夢は自分でごそごそとズボンを脱ぎ、上掛けにくるまった。
「よしよし、こんなことで倒れるなよ。戦闘員じゃないとはいえ、お前も前線によく行くんだからな、身体が資本だ、ゆっくり休め」
 ぽんぽんと我夢の胸の辺りを叩き、梶尾はにっこり笑って言うと、そのままベッドの端に腰を下ろし腕を組んでしまう。
「そんな見張ってなくても、ちゃんと寝ますよ」
「俺がここに居たいんだ。気にするな」
 そう言われても、じっと見つめられていては、寝にくい。ごそごそ身じろぎをし、目を閉じても梶尾の視線を感じてくすぐったさに頬がぴくぴくと引きつってしまう。
 だが、本当に疲れていた我夢はいつしか寝入ってしまい、梶尾が出ていったことにも気付かなかった。


 すっきりした気分で目覚めた我夢は、ぼんやりと辺りを見回し梶尾の姿を探した。
「居るわけ、ないか…」
 眠りに落ちる寸前、梶尾が自分の耳元に何か呟いたような覚えがあったのだ。それに、何かが頬や唇に触れた気配も覚えている。けれど、それは夢だったのかも知れない。
 我夢は起きあがって伸びをすると、取りあえず昨日のデータを整理しなくてはと、着替えて資料室へ向かう。
「あ、おはようございます…昨日はどうも」
 廊下の途中で梶尾に出会い、我夢はにっこり笑って言うと彼の姿をまじまじと見つめた。いつもの制服ではなく、私服に着替えている梶尾はちょっと違う人のように見える。
「地上に降りるんですか?珍しいですね」
「我夢、すぐに私服に着替えて来い」
「え?」
 梶尾が地上に降りることなど滅多にない。いつも休みの時ですらトレーニングをしたり、シミュレートをしたりしているのだ。何かあるのだろうかと思って訊いた我夢に、梶尾はそう言うとダヴライナーで待っていると言ってさっさと行ってしまった。
「でも、僕は今日」
「チーフの命令だ。遅れるなよ」
 後ろを振り返りもせずに梶尾は言うと角を曲がって姿を消してしまった。唖然としながら我夢は、本当かと…梶尾を疑うわけではないが…ナビを使って堤に連絡を取った。
「お前のお守りを梶尾に頼んである。仕事は上総研究所に行って前回の敵の資料を貰ってくる事だが、一応休暇扱いにしてあるから、ゆっくり地上で鋭気を養ってこい」
「はあ…」
 にやりと笑う堤に我夢は小さく頷いてナビを閉じた。資料など、メールを使えばすぐにでも手に入れることはできる。わざわざ取りに行く必要など無い。休暇なら単純にそう言えば良いのに…と思ったが、梶尾の事を考えてはっと気付いた。
 我夢と一緒に、なかなか休暇を消化しようとしない梶尾も休ませようと言うつもりなのだろう。それならばどっちかというと、お守りは自分になるんじゃないだろうか。
 我夢は溜息を付くと、その考えにくすりと笑って自分の部屋にとって返した。
 ジオベースから普通の車を借りて梶尾と我夢は研究所へ向かっていった。資料を受け取り、すぐに帰ろうとする梶尾を制して我夢は少しドライブしましょうと誘った。研究所は海の側にあり、車で数十分もすれば綺麗な海を見ることができるのだ。
「ほら、梶尾さん、海ですよ」
「ああ、そんなはしゃぐな。海くらいいつでも見てるだろうが」
 日差しを受けて煌めく海を見つけて我夢は大声で梶尾に告げた。眉を顰めて我夢を諫めた梶尾だったが、ばしばし肩を叩かれて仕方なくその方をちらりと見る。確かに美しい景色だったが、それよりぴったりとくっついた我夢の体温の方が気に掛かる。
ほら、あれ、と我夢の嬉しそうな顔を近づけられて僅かに目を見張った梶尾は、慌てて視線を前方に戻し運転に意識を集中させた。
「あ、あの道曲がって、海岸に出られます」
 言われたように道を曲がり海岸近くの駐車場へ車を止めると、二人は外に出た。まだ海開きには早い海岸には人気が無く、ただ高い波が砂浜に打ち付けられるばかりだった。
「久しぶりだな…」
「え?」
「戦闘や訓練以外で海をこんなにじっくり見たのは、久しぶりだ」
 微かに笑みを浮かべて眩しそうに海を見つめている梶尾に、我夢はにっこり笑って頷いた。我夢にとって海は育った家のすぐ側にある見慣れたものだったけれど、地球を守るという使命を経て見つめる海は、本当に美しくて絶対なくしてはならないものだと思える。
 それに、この深く眩しい青は、もう一人地球の光を授かった人間を思い出させてくれる。もう共に戦う事が無いかもしれない、青いウルトラマンを。
 我夢は目の端を過ぎる影に、ふとそちらを見た。
「藤宮…!?」
 砂浜から海に入って行く影を追って我夢も走り寄る。何が起こったのか解らず呆然と見ていた梶尾も慌てて我夢の後を追った。
 ばしゃばしゃと波を蹴立てて海へ入っていく我夢を、梶尾は後ろから羽交い締めにして引き留めた。だが、足下が砂浜に加えて波に足を取られ、二人とも派手に転んでしまい波を被ってしまった。
「我夢っ、どうしたんだ、急に」
「藤宮が…」
 息を切らせて漸く立ち上がった我夢は、沖の方を見た。だが、人影は見えない。梶尾は目を眇めて我夢が見ている方を見たが、視線を戻すとゆっくりと諭すように言った。
「俺には何も見えなかった。本当にあいつが居たのか?」
「……」
 我夢は首を振ると、俯いた。あれは自分が見たいと思って作り出した幻だったのかもしれない。唇を噛み締め震える我夢の肩をぎゅっと掴み、梶尾は思わず抱きしめた。
「我夢…」
「すみません…濡れちゃいましたね」
 やっと落ち着いたのか、我夢はそっと顔を上げて梶尾の方を覗き込んだ。梶尾はその言葉に自分と我夢の姿を改めて見た。下着まで濡れているという訳ではないが、このままでは借りた車のシートを濡らしてしまうだろう。
「仕方ない…どこかで乾かそう」
 我夢を抱きかかえたまま海岸から上がると、梶尾は辺りを見回した。丁度いいことに、リゾートホテルの案内が見える。車は後で取りに来ることにして、二人はそのホテルに向かった。


 シーズン前のホテルは予約なしでも部屋がすぐに取れた。服をすぐさまクリーニングに出して、取りあえずシャワーで海水を洗い流す。バスローブを着てベッドに腰を下ろした我夢は、ぺこりと梶尾に頭を下げた。
「ほんとに、すみません。せっかくの休暇なのに、僕のせいで」
「気にするな。ちょっと海水浴には気が早かったけどな」
 謝る我夢に、梶尾は笑みを浮かべてからかうように言った。ほっとして我夢は顔を上げにっこりと梶尾に笑い掛ける。が、じっと見つめてくる梶尾の真剣な表情に、ぎくりとして目を見張った。
「…まだ、あいつに拘っているのか」
「……友達…ですから。あの時目の前から消えて…居なくなって…」
「なら、リザードに言って調べればいい。あいつには目を付けていた筈だからすぐに居場所も判るだろう」
 梶尾の言葉に我夢はゆっくりと目を閉じた。もちろんそれは我夢も考えていた。リザードの資料を見ればきっと見つかるだろうと。けれど、もしかしたらそれは生きている藤宮ではないかもしれない。それを知るのが怖くて調べたくないのだ。
「怖いのか?あいつがもしかしたら死んでるかも知れないと」
 はっと我夢は目を開けて梶尾を見た。不安に揺れる子供のような瞳に、梶尾はふっと笑い掛け、手を伸ばすとがしがしとその濡れた髪をかき回すように撫でた。
「心配するな。俺が見たところ、あいつは殺しても死なないような不遜な奴だ。それに、お前やあの彼女が待ってる事を知っているんだから、絶対死んだりしない。あいつはそんな奴なんだろ?」
「はい…そうです。そうですよね…梶尾さん」
 ぱっと明るくなる我夢の表情に、梶尾は頭を撫でていた掌を頬に降ろし包み込むように当てた。ついで梶尾の顔が近づいてきて我夢の目の前一杯に広がる。
 何?と思った瞬間、我夢の唇は柔らかいもので塞がれた。すぐに離れたそれが梶尾の唇だと理解すると、我夢は真っ赤になって硬直してしまう。
「我夢…」
 熱く囁かれる声に我夢はぎくりとして目を閉じた。再び唇が触れ、更に深く合わさってくる。頬に当てられた手は決して強く拘束している訳ではないのに、我夢は避けることも引くこともできず、梶尾の口付けを受けていた。
「…は……」
 僅かにずれた唇から掠れた吐息が漏れ、我夢は自分のその声に真っ赤になって漸く逃げることを思いついた。だが、身を引くのに合わせるように梶尾は我夢の身体の上にのし掛かり、ベッドに二人とも倒れ込んでしまう。
「嫌…か?」
 真摯な瞳で見つめ訊いてくる梶尾に、我夢はじっと見つめ返した。
「…本気…ですか」
「俺はお前が好きだ。いつからこうなりたいと思っていたかは自分でも判らんが…こういう状況で暴走する前にきっちり話は付けておかないとな」
「もう結構暴走してると思いますけど…」
 あまりに梶尾らしい言いように、我夢はくすりと笑うと力を抜いて未だ頬に添えられている手に自分の手を重ねた。
「僕も梶尾さんが好きです。…こういうのは、ちょっと良く判らないんですけど……」
「我夢」
 はにかんだように応える我夢に、梶尾は満面に笑みを浮かべると口付けた。
 ゆっくり唇を辿るように梶尾の舌がなぞると、くすぐったさと快感の混じったような感触に、我夢は唇を薄く開いた。そこにするりと梶尾の舌が入り込み、我夢の舌を求めて口腔を辿る。
 舌を絡め取られ緩く吸われると、我夢はぞくりとする感覚に、ぎゅっと梶尾の手を握り締めた。その手とは逆の方の梶尾の手がバスローブの襟口から入り込み、胸を撫で降ろしていく。
 乳首を指先で擦られて、我夢はびくりと身体を震わせた。徐々に反応し、ぷつりと堅くなってくるそれを、梶尾はしつこいほどに指先で弄ぶ。
 ちりちりとした痛みともなんともつかない感覚が弄られている部分から全身に広がり、やがて下半身に収束していく。我夢は熱くなってくる下半身を恥じるように足を曲げて隠そうとしたが、梶尾の足に阻まれ、動揺している間に間に割り込まれて閉じられないようになってしまった。
「は…っ…か…じお…さ」
 漸く唇が離れ、我夢は抗議の声を上げようとする。けれど、その声は喘ぐようなものにしかならなかった。
 梶尾の唇は顎から首筋を伝い、バスローブの前を開いて堅く敏感になった乳首を捕らえた。さっきまでの指での愛撫とは違う、濡れた感触に我夢はひくりと喉を鳴らす。
 梶尾が舌先で転がし、歯で刺激を与えると、我夢はいやいやをするように頭を振った。胸を愛撫しながら、梶尾は手を下腹部に伸ばし熱く半ば勃ち上がっている我夢自身をやんわりと握り締める。びくんと堅さを増すそれをゆっくり扱きながら、梶尾は舌を胸から腹へと這わせていった。
「あっ……か、かじ…おさん…や…だ…」
 強弱を付けて扱きながら、指先で先端を回すように刺激する。びくりと我夢自身は震え、先端から先走りの露を零し始めた。
「…あっ…あぁ…く…」
 梶尾が強く刺激すると、我夢は呆気なくその手の中に果ててしまった。
 荒く肩で息をする我夢の両足を抱え上げ、奥に秘められた部分を露わにすると、放たれた物を塗り込めるように指でその部分を愛撫し始めた。
「え…?…なに…嫌だ…」
 加えられる異物感に我夢は力を込め、除こうとする。それを宥めるように梶尾はもう一方の手で、萎えた我夢自身を愛撫した。
「…大丈夫だ…力を抜け…」
 梶尾の声も熱く掠れている。我夢はその言葉にゆっくり息を吐くと、力を抜いた。前への愛撫と後ろを解す指の動きに、我夢の頭は霞が掛かったように白くなっていった。
「我夢……」
 耳元に梶尾の声が聞こえた瞬間、我夢は引き裂かれるような激痛に悲鳴すら上げられず、身体を硬直させた。
 梶尾は無理に動こうとはせず、ゆっくり我夢自身を愛撫していく。やがて我夢の身体から力が抜け、寄せられた眉根が痛みだけではないものに変わると、徐々に腰を動かしていった。
「…我夢」
「かじ…お…さん…」
 痛みにシーツを握り締めていた手を離し、我夢は梶尾の手を握り締めた。ぎゅっとそれを握り返し、梶尾は我夢に口付ける。
 梶尾が中に果てたと同時に、我夢もまたその手の中に放っていた。


「……大丈夫じゃなかった…」
 自分の腕の中でぼそりと呟く我夢に、梶尾は苦笑いを浮かべた。
「すまなかったな。今度は大丈夫なように努力する」
「今度はって…」
 呆れたように見る我夢に、梶尾は真面目な顔で本当だぞ、と頷いて見せた。梶尾が大丈夫というのなら、きっとそうなんだろう。藤宮のことも、これも、きっと大丈夫だ。
 我夢はそう納得して、梶尾の胸に凭れるようにして目を閉じた。


                            ちゃんちゃん

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