炎は応えない竜から無理矢理視線を外し、どきどきしながら空を見上げた。それでもまだちりちりと頬の当たりに竜の視線を感じていたたまれない。
「や、やっぱカイたちも呼んでこよーか…ここいい場所だから」
「下駄も無いのにか」
う、と詰まって炎は足下を見た。あの喧嘩の時に落としてしまったせいで今は裸足である。はあ、とため息を付いて空を見上げる炎の頬に、何か冷たいものが当たった。
「雨?…」
ぽつりときた途端、ざーっと音を立てて振ってきた雨に炎は慌てて身を引いた。竜は庵の扉を開き、炎を抱きかかえて中に入っていく。薄暗い庵の中は、思ったよりも埃っぽくなくただ雨の音と抱えている竜の鼓動だけが炎の耳に響いていた。
「あ…やんだみてー」
雨の音がなくなり、代わって花火の音が聞こえてくる。壁の隙間から見える外には僅かだけど花火が見え、その明かりが中を照らし出した。
「やんだぜ、外に出…」
炎の言葉は竜の口付けで止められた。びっくりして目を見開く炎の唇からそっと離れると、竜は再び今度は深く貪るように口付ける。
「…んんっ…リュ…ウ…何すんだよっ!」
両手を使って竜を押しのけ、炎は顔を真っ赤にして言った。
「キス…」
「そんなこたあ判ってるっ」
「以外もしたい…」
噛み付く炎がその言葉に目を白黒させていると、竜はすっと唇を項に落としぺろりと舐め上げた。
「うひゃあっ!!」
「大声を出すと、下に聞こえるぞ…」
げっと炎は自分の口を押さえた。竜は微かに笑み、手を炎の膝に掛ける。連れ込まれたときに乱れてしまった浴衣の裾から覗く膝をするりと撫でられ、炎はぞぞっと走った悪寒に悲鳴を上げそうになった。
「…リュ…っやめろ…」
それを何とか堪え、炎は竜の手を押しのけようとする。だが、竜はそのまま奥へ手を忍ばせ、無防備な下着の上から炎自身をゆっくりと愛撫し始めた。
それを押さえようとする炎の襟刳りから、手を差し入れ竜は今度は胸を撫で始めた。突起を見出して指先で転がすようにすると炎は頭を振り、片方の手で必死に押さえる。
「ひっ!…やっ…」
下着をずらし、直に握り混んでくる竜の手に炎は思わず悲鳴を上げる。唇を噛みしめ自分の意志ではなく高められていく身体への悔しさで目尻に涙を浮かべる炎を、竜は困ったような顔で見つめ目元に口付けた。
「泣くな…」
「馬鹿…やろう…」
「好きだ…エン…」
睨み付ける炎に、竜は子供のような素直な顔で告げた。驚いている炎に竜は再び愛撫を続ける。堅く張りつめている炎の熱を吐き出させ、竜はそのまま指を奥へと進めた。
「…う……あ…」
信じられないように見つめ身体を堅くする炎の萎えたものを再び煽り、竜は再び吐息を漏らし始めた唇に口付けた。
外ではそろそろクライマックスなのか、次々に大玉が打ち上げられているようで、入ってくる光も眩しさを増している。誰もこんな場所で秘め事が行われているとは思わないだろう。そんなことをぼんやりと頭の隅で考えながら、炎は侵入してきた指の痛みと前への愛撫に翻弄されていった。
「エン…痛いと思うが…許してくれ…」
何が痛くて許せと言うのだろうと炎は思ったが、次の瞬間激痛に目を見開いた。
「ぐぅっ……あっ…!」
竜は炎の口を片手で覆い、悲鳴を押しとどめながらなるべくゆっくりと身体を進めていく。何とか全部を炎の内部に収めると、逸る身体を抑え一つ息を付いた。
「……いっ…てぇ……っ!」
「好きだ…エン……」
熱く炎の耳元に想いを告げ、竜は徐々に激しく動き始めた。
ドーンという腹に響く音に炎はぼんやりと目を開いた。すぐ近くに竜の端正な顔があり、どきんと心臓が跳ねる。動こうとすると腰に激痛が走り、炎は痛みに顔をしかめた。
「動かない方がいい…」
「…好きだってのは本当か…」
ぼそりと炎は竜に訊いた。竜は外に向けていた視線を炎に戻し、じっと見つめた。
「ああ…」
「ちゃんと考えて言ってんだろーな。そーいうのは変態って言うんだぞ」
あっさり応える竜に、炎はむっとして言う。
「…そうかもしれないな…。でも、好きになってしまったものは仕方がない。お前の姿が見えなかったり、誰かと居ると胸が苦しかった。お前の姿を見た時…ああ、好きなんだと思った」
大まじめな顔で言う竜に炎の顔が赤くなる。好きだと言われて変だともイヤだとも思えないのは、自分も竜のことが好きなのだろうか…。
訳が分からなくなって顔を伏せてしまった炎の顎を取り、竜はやんわりと口付けた。そのまま唇が頬や首筋に移り、炎を床に横たえようとする。
「ちょっ…リュウ…」
痛みに僅かな抵抗しかできない炎を簡単に押さえ込み、竜は手を身体に這わせ始めた。
「あれ…こんな所に庵があったんですね」
「穴場じゃーん、いいとこだ」
「エンの下駄は確かにこっちへの道に落ちていたのだが…」
聞き覚えのある声にびくりとエンは動きを止めた。だが、竜は止めようともせずまさぐってくる。
「…よせって…」
「聞こえるぞ……」
ぼそぼそと必死に言って抵抗し始める炎に低く応え、竜が口付けようとした時、がたり、と音がして庵の扉が開かれた。
「何をしている…!」
ドスの利いた海の声に漸く竜は炎の上からどき、不敵な表情で振り返った。
「は、花火終わったのか…」
焦って竜の下から逃れると炎は冷や汗を浮かべながら訊いた。無言のまま海は庵に上がり込むと炎の腕を取り立ち上がらせる。ぱたぱたと埃をはたき、身繕いをさせた。
「帰るぞ」
炎を抱き上げようとした海からするりと奪い、竜はさっさと外へ出ていく。その様子を海は歯がみしながら見ているしかなかった。
「こわ〜…」
「…渡さない…カイには」
「俺はお前のものじゃないぞ」
おっかなびっくり海を見ていた炎は、竜の言葉にむっとする。確かに好きかもと思ったが、だからといって竜のものになったとは思いたくなかった。
竜は炎にも不敵に微笑みかけ、それには応えず歩き始めた。